第二十九話 合格発表※挿絵あり
合格発表当日。
昨日からわたしは、「期待しちゃダメだ期待しちゃダメだ……」と自分に言い聞かせている。
そう、絶対受かるはずない。筆記があの出来で。
正直に言おう。テストはおそらく0点だ。
筆記テストが0点で合格なんて、聞いたことがない。
だから、期待しちゃいけない。
そう言い聞かせているのに、油断すると、「でも、ひょっとすると」なんて考えが浮かんできてしまう。
人って、どんなときにも希望を持ってしまうものなのかしら。
やめよう。期待したら、した分だけつらくなるんだから。
思えば、随分期待して、裏切られた人生だった。
魔法使いに憧れた幼稚園時代。小学校に上がっても毎日魔法の練習。アニメのキャラと一緒に呪文を唱えてた。
中学生になってもまだ信じてた。学校ではみんなに合わせて芸能人の話をしたりしてたけど、家ではにゃあ介相手にラノベの呪文を叫んでた。
そしてわたしは高校に入った。
なんとなく分かってた。このままフツーのOLになって、フツーの人生を送るんだって。
もう期待するのはやめよう。何かすばらしいことが自分の人生に起こるなんて、望みを持つだけ損だ。そう思っていた矢先、あの事故が起きて――
わたしはフツーじゃなくなった。
そして、目の前に、本物の魔法学校が現れた。
神サマって酷だわ。これで期待するなって言う方が無理じゃん。
もう、見に行くのをやめようかな。
どうせ不合格だし、きっと泣いてしまう。
でもそれはできなかった。どんなに裏切られるとわかっていても、どんなに傷つくとわかっていても、この目で確認せずにはいられなかった。
――いや、わかっていない。わたし、やっぱり、期待してる。
校舎の西側には、もう大分人が集まっていた。わたしはその後ろの方に立ち、みんなの様子を見ていた。
ここにいるみんなも、期待して、夢を見て、集まっているんだわ。
朝の鐘と同時に発表が始まった。
係の人が、壁に羊皮紙を貼り出す。ここからじゃ遠くて番号が見えない。
じっと待つ間、前の人たちが一喜一憂するのが目に入った。
泣いたり、喜んだり、落ち込んだり、笑ったり。
そのとき、思った。
落ちたら、また受けよう。
何度落ちたって受けてやるんだ。学校の人に嫌がられたって、生徒たちに笑われたって、何回でも何回でも受けてやる。
合格するまでやめないんだから!
前が空いてきた。
わたしは貼り出された羊皮紙に近づいていって、目を凝らす。
「ないか。やっぱりないよね……」
胸がきゅうっと痛くなる。心の準備はできていたはずだった。でも、いざ魔法学校に入れないとなると、とっても苦しかった。
目を伏せ、わたしはその場を後にしようとする。
(ミオン、よく見たのか)
「ありがと、にゃあ介。次、がんばる……」
(最後にもう一度だけ、確認しろ)
「いいのよもう。何度確認したって、ないものは――」
次の瞬間、その番号が、急に目に飛び込んできた。
ううん、初めから見えていたはずだった。
でも、あまりにも信じられないことだから、脳が認識できなかったのだ。
貼り出された番号の最後、羊皮紙の右隅には、はっきりとこう書かれていた。
「次の者は、補欠合格とする。033」
わたし、受かった。
◆
「何とか、二人とも受かったみたいね」
振り返ると立っていたのは、セレーナだった。
わたしは、合格の興奮の冷めやらぬ頭で考えた。
セレーナ、今何て言った? 二人とも?
「そうか、セレーナも受かったんだね。やった!」
わたしはセレーナの手を取るとぐるぐると回り始めた。
「ちょ、ちょっと」
セレーナは恥ずかしそうに周りを見る。
「あれ?」
わたしはピタリと跳び回るのをやめ、
「セレーナ、何でわたしが受かったって知ってるの?」
「え、そ、それは、あの日、あなたが手を振っていたから……」
「机の番号を確認して、今まで覚えていてくれたの? すごい!」
「べ、別にわざわざ覚えていたわけではなく――」
「ありがとーー!!!」
わたしはまたセレーナの手を取って回りだした。
「随分、にぎやかなことだわな」
にこにこしながら話しかけてきたのは、ドワーフの守衛さん。
ちいさな体を前後にひょこひょこと揺らしながらやってくる。
「ガーリンさん!」
「ネコ族の……たしか、ミオンだったかな?」
「覚えててくれました? うれしい。……あの、わたし、受かりました。今日からここの生徒です!」
「ほぉ~、そうかそうか。そいつはよかった。隣の子も生徒さんかな?」
「うん。セレーナ。彼女も新入生なの」
「初めまして」
セレーナは、スカートをちょいとつまんで、腰を落とす。
おおー、この挨拶の仕方、生で見るの初めてだ。
「おう、よろしくな、二人とも」
ガーリンさんは、兜に手をやると、言った。
「ところで、早速で悪いんだが、ちーと手伝ってはくれんか」




