第二百九十三話 水盆地点での戦い
「はっ!」
セレーナが、わたしの氷魔法で凍り付いたワー・ウルフを両断する。
「まあまあだ。――魔物には相性というものがある。例えばワー・ウルフには氷魔法、その逆にアンデッドには火炎魔法」
「は、はい」
「魔法を撃つときもただ闇雲に狙うのではなく、複数の敵を巻き込めるようならそこを狙う」
「はい!」
わたしは目一杯元気よく返事をする。ヒネック先生はちょっとうるさそうな顔で口を結ぶ。
「まるで黒魔法の授業を受けているようだな」
「そうね」
リーゼロッテとセレーナが、わたしとヒネック先生のやりとりを見て言う。
わたしたちは魔物を倒しながら、迷宮内を進んでいく。
序盤、姿の見えなかった魔物たちだが、中層にさしかかるにつれ、徐々に数が増えていた。
「大丈夫? セレーナ、リーゼロッテ、疲れてない?」
わたしは隣を歩く二人に声をかけた。
「平気よ」
「大丈夫だ」
二人は同時に答える。
しかし、表情には疲労の色が浮かんでいるように見えた。
「もうすぐ水盆のある場所です。前回はこの辺りで引き返したのでしたね」
先生が地図を見ながら言う。
「ダンジョンのオアシスだね。わたしあそこ好き」
「ははは、分かります。このダンジョン内は、どこも単調な景色ですからね…………待って!」
と、急に先生が足を止め、わたしたちを手で制す。
「どうやら、魔物のようです」
前方を見ると、暗闇の向こうからこちらへ、ゆっくりと近づいてくる影があった。
「皆さん、戦闘準備はいいですか?」
「はい」
わたしはそう言って、短剣を握りしめる。
「いつでも」
セレーナはエリクシオンを抜く。
リーゼロッテは新調した赤い弓を構える。
ヒネック先生も、昨日手に入れた剣を手にした。
やがて敵が姿を現す。
「あれは!」
エスノザ先生が小さく叫ぶ。
「デスナイト。中層にしては強力すぎる魔物が出てきたな」
ヒネック先生が言うと、エスノザ先生はこう付け加えた。
「やつはアンデッドモンスターです」
◆
デスナイトは、全身を黒い鎧に身を包んだ騎士のような姿だった。
スローモーションかと思うほどゆっくりと、こちらへ歩いてくる。動きは鈍いのだろうか。
背中に手をやった――と思うと、すらり、と大剣を抜いた。
デスナイトは錆びついたその大剣を両手で握り、構える。
わたしたちは一瞬怯む。
その構えと、立ち姿から感じ取る。――こいつは手強い。
「大丈夫、みんなで戦えば勝てるよ」
わたしは自分に言い聞かせるように言った。
「その通り。連携が大事です。だが――」
エスノザ先生の言葉の先を、ヒネック先生が受け持った。
「相談してる暇はない。感覚でやるしかない。……いくぞ!」
わたしたちが戦闘態勢に入ったのを見て取ったのか、デスナイトは地を蹴って突進してきた。
「速い!」
動きが鈍いなんてとんでもなかった。
瞬く間に距離を詰められると、大上段からの一撃が来た。
ガキィンッ!!
金属同士がぶつかり合う音が響く。
デスナイトの第一撃を防いだのはヒネック先生だった。
「ぐっ……」
ヒネック先生は、自身の剣でデスナイトの大剣を支える。――いかにも重そうだ。
セレーナがエリクシオンで右側から斬りかかる。
デスナイトは素早く飛び退り、左から迫る斬撃をかわす。
セレーナの剣は相手の脇腹をかすめ、鎧の一部を切り裂いた。
エスノザ先生がエストックを繰り出す。
鋭い突きがデスナイトを襲う。
しかしそれを、デスナイトが大剣で防ぐ。
「なんて反応速度だ」
リーゼロッテが驚く。
彼女は弓を構え、矢を射かける。
デスナイトはさらに後ろに飛んでそれを回避。
わたしたちは距離を取ってにらみ合う。
緊迫した空気が流れる。
わたしたちの荒い息遣いが迷宮内に響く。
一方、デスナイトは死んだように静かだ。いや、死んでいる。やつはアンデッドだ。
「ミオンさん」
エスノザ先生が言う。
「魔法を」




