第二十八話 体力測定2
人の背丈くらいの棒が、数メートル離れて二本立っている。
太さは、道路標識のポールくらい?
これが次の測定種目らしかった。
「この二本の棒を、制限時間内に何回触ることができるかを測ります」
なるほど。わたしは思った。
これ、反復横跳びみたいなもんね。
(魔物との戦闘に比べたらお遊戯みたいなもんニャ。洞窟でスライムを避けたようにやればいい)
「うん」
わたしは頭の中でイメージトレーニングをしながら、自分の番を待った。
前の子たちが、はぁはぁと息を切らしながら、左右に跳ぶのを見つめる。
そうだ、靴、脱ごう。わたしは、裸足になって準備する。
「次、33番の方ー」
「はい!」
わたしは前に進み出て二本の棒の間に立つ。
そして腰を屈め、合図を待った。
「よーい、はじめ!」
手を叩く合図とともに、わたしはできうる限り速く、左右に動いた。
イメージは、「パパパパ」って感じ。
イメージ通り動けているかどうかはわからない。ただ、みんなが息をのむ音が聞こえた。
「や、やめ!」
終了の合図。わたしはピタリと動きを止める。
すると、計測係さんが戸惑った声を上げた。
「数、合ってるかな。私、自信ないわ……」
◆
「キミ、ちょっと動きが速いからって、調子に乗らない方がいいよ」
ブロンドの髪を撫でつけた男の子が、アゴを突き出しながら言った。彼はさっき、わたしが走ったときに、後ろで笑っていた子だ。
「え? わたし調子に乗ってなんか……」
「次の測定はどうやらジャンプ力のようだね。僕はジャンプ力にはいささか自信があるんだ」
見ると、次のエリアには、高い板が立てられていた。
その板は黒っぽい色で、下で二人の人間が倒れないように押さえつけている。
どうやら、手に白い粉をつけて跳び、白い跡がついた位置を計測するらしい。
男の子の言うとおり、跳躍力の測定だ。
「まあ、見ていたまえ」
男の子はそう言うと、わたしの返事も待たずに板のところへ行って、手に粉をつけ始めた。
(ニャルシストなヤツだニャ)
「自信満々でちょっとうらやましいかも」
わたしが見守る中、男の子は、ニ・三回立ったりしゃがんだりを繰り返した。そして、上へ向かって飛び上がる。
パーン! と音がして、板に白い跡がついた。
計測係の人たちが、板を倒し、高さを計測する。6~70センチほど跳んだだろうか。
(にゃんだアレは。オシッコでも我慢しているのか)
「普通の人にしては高い方よ」
男の子が、アゴを突き出しながらやって来る。
わたしのところへ来ると、言った。
「ざっとこんなもんさ」
息を切らしながら、自慢げに続ける。
「僕は、ケイン。これでわかったと思うけど、上には上がいるのさ。ちょっと足が速いくらいで驕ってはいけないよ。キミがどうしてもと言うなら、これから色々と教えてやらなくも……」
「ねえ、ここ、天井まで何メートルかな?」
「あん?」
自分の言葉を途中で遮られたケインは、面食らった様子で言った。
「何言ってんだ、キミ。頭は大丈夫か?」
「そう、頭が心配なのよね……」
わたしはそう言うと、板のところへ行き、手に粉をつけた。
「あのー、板より高く跳んじゃったら、どうすればいいんですか?」
すると、計測係さんたちは、面白そうに笑った。
ジョークじゃなかったんだけどな……。
振り返ると、ケインは隣の子に、何か話しかけ、わたしと頭を交互に指さしている。
おおかた、「あの女、頭がおかしいぜ」とでも言っているのだろう。
(オイ)
にゃあ介が語りかけてくる。
(少しだけ本気出してやれ)
「うん」
わたしは、一回屈伸運動をして、
「じゃ、跳びます」
と確認する。
「どうぞ」
計測係さんの、返事を聞いた後、上へ跳んだ。
目線がぐん、と上へ移動する。
一気に天井が近づき、危うく頭を打ちそうになる。
「やばい」
首を横に傾げて、何とか激突を避ける。
そして、わたしはチョン、と天井を触った。
(上出来ニャ。しかしちょっとやり過ぎたかもニャ)
ふと下を見ると、みんながわたしを見上げている。
やばい、確かにやり過ぎだ。
だが、時すでに遅し。
「よっ……と」
わたしは後悔しながら、横に手を伸ばして器械体操のポーズで着地する。
着地と同時に、みんなの視線が突き刺さってくる。
ケインは、顎がはずれるんじゃないか、というほど口を開けている。
とにかく、何か言わなくちゃ。
「て、天井汚れてますよ?」
わたしは、手についた埃を見せ、訳の分からない言い訳でごまかそうとしたのだった……。




