第二百八十五話 一旦帰還
「……なぜお前がここにいる? 生徒たちまで引き連れて……」
ヒネック先生は、眉間にしわを寄せて訊く。
「お前を助けに来たんだ」
エスノザ先生が言うと、
「余計なお世話だ」
ヒネック先生はぶっきらぼうに返す。
エスノザ先生は、
「なぜ一人で行くなんて無茶をした? ……見ろ、怪我をしてるじゃないか」
そう言うと、嫌がるヒネック先生に無理やり治癒魔法をかける。
「…………」
「まったく、こんなになるまで無理をするなよ」
「ふん」
「今日はもう遅い。とにかく、地上へ戻ろう。……立てるか?」
ヒネック先生は自力で立ち上がり、言う。
「戻るわけにはいかない。この先で、何か異変が起きているのだ」
そんなヒネック先生に、エスノザ先生は言った。
「『いったん』戻るだけだ。また後日、調査に下りてくる。……私たち全員でな」
◆
歩き始めても、二人はずっと無言だった。
とても学生時代に大の親友だったとは思えない。
「き、気まずい……」
わたしは小声で言う。
「先生たちにもいろいろあるのよ」
「まあ、二人のことは二人に任せておいたほうがいい」
セレーナもリーゼロッテも、特に気にしていない様子だ。
わたしだけ、無言の二人にどきどきしている。
「な、なんか話でもしたほうがいいんじゃない?」
(余計なことを言うんじゃニャいぞ)
にゃあ介が釘を刺すが、わたしは何とか二人の仲を取り持とうと、口を開く。
「い、いい天気ですね!」
…………。
恐ろしいほどの静寂が辺りを包む。
魔物でもいいから出て欲しいと思ったくらいだ。
「ミオン、ここはダンジョン内よ」
セレーナの冷静な声が、静かに響く。
「セレーナ……もうちょっと早く突っ込んでよ」
わたしは冷や汗をぬぐいながら言う。
(やれやれ、ニャ……)
結局、それから地上に戻るまで、先生たちは一切口を訊かなかった。
◆
「あー、やっと戻れた!」
わたしは伸びをしながら言う。
「この解放感!」
地下迷宮から出ると、もう日が傾きかけていた。
「これからどうしましょう?」
セレーナが訊く。
「今日は宿で休んで、明日、潜入の準備をしましょう。……皆さんそれでよろしいですか」
皆がうなずく。ヒネック先生だけは黙っている。
「この街なら、今からでも宿は取れるはずです。行きましょう」
先生の言う通り、宿は簡単に見つけることができた。
日が暮れてからやってくる冒険者も多いらしく、この街にはそんな冒険者たちに向けた宿屋が多いそうだ。
わたしとセレーナとリーゼロッテは同じ部屋で、ヒネック先生とエスノザ先生は、むろん一人一部屋を取った。
荷物を置いて少し休む。
「お腹すいたあ」
「そうね。今日は慌ただしかったから」
セレーナが同意する。
と、窓の外を見ていたリーゼロッテが、
「あ」
と声を上げる。
「どしたの」
わたしはリーゼロッテの横から、窓の外へ目をやる。
そこにあったのは街なかへ歩いていくヒネック先生の姿だった。
「ヒネック先生、食事かな?」
「まあそうだろうな。……おや?」
リーゼロッテがまた何かに気づく。
宿から出てくるエスノザ先生の姿が目に入る。
「あら、エスノザ先生ね」
セレーナも窓際へとやってくる。
「どうする? なんか気になるなあ……」
「そうね……」
「よし、ついて行こう」
わたしたちは急いで身支度を整えて、宿を出た。




