第二百八十三話 迷宮
スケルトン・ソルジャーは、遠巻きにこちらをうかがって、近づいてこない。
リーゼロッテが、矢による牽制を仕掛ける。
「!」
スケルトンは、それを盾で防ぐ。
キン、と音がして、リーゼロッテの矢が弾かれる。
(戦闘慣れしているようだニャ。油断するな)
と、にゃあ介の声。
「来ますよ!」
先生が叫ぶ。
スケルトン・ソルジャーは、盾を構えたまま、こちらへ向かってくる。
「セイッ!」
セレーナが前に出る。
彼女は右足を蹴り出し、スケルトン・ソルジャーの突進を止める。
スケルトン・ソルジャーが剣を繰り出す。
セレーナがエリクシオンでそれを受け止める。
「そのまま!」
セレーナとつば迫り合いをしているスケルトンに、エスノザ先生が横から斬りかかる。
骸骨戦士はセレーナの剣を受けたまま身体を捻らせ、盾で防ごうとするが避けきれない。
エスノザ先生の剣は、スケルトン・ソルジャーの肋骨を数本叩き折る。
しかし体勢を立て直したスケルトン・ソルジャーは、受けた傷をものともせず再びセレーナに斬りかかる。
確かに戦闘慣れしている。手ごわい敵だ。
けれど、二人を相手にして、徐々に押されていく。そのときわたしは――
スケルトン・ソルジャーの頭上にいた。
「くらえぇっ!」
ルミナスブレードに全体重を乗せ、真下にあるスケルトンの頭蓋骨めがけて落下する。
ガツンと衝撃があり、スケルトン・ソルジャーは後ろによろめく。
わたしは地上へ落ちる瞬間に転がって受け身を取る。
起き上がって見ると、スケルトンの頭蓋骨は真っ二つに割れている。
そして――
骸骨戦士は、がらがらと音を立てて崩れ落ちた。
◆
「ぃやったー!」
わたしは両の拳を突き上げて喜ぶ。
「あいかわらず、すごい跳躍力ね」
セレーナが剣を収めながら言う。
「えへへ」
頭を掻いていると、
「ミオンさん、すばらしい攻撃でしたね!」
先生が拍手でたたえてくれる。わたしは、
「ありがとうございます!」
と、笑顔で返す。
よーし、さっきの遅れはとり返したぞ! ね、にゃあ介。
(まあまあだニャ)
にゃあ介の反応も悪くないので、わたしはうれしくてスキップになる。
「それじゃあみんな、はやく行こう」
わたしが弾む足取りで進み始めると、みんなは呆れながらもついてきてくれる。
◆
「また分かれ道だ」
わたしはつぶやく。
「何度も階段を下りたし……本当に広い迷宮なんですね」
「ええ」
先生が答える。
「この地図がなければ、帰ることもままならないでしょう。じっさい、迷宮内で迷って、そのまま行方知れずになる冒険者もいますから」
「…………」
エスノザ先生の言葉に、わたしはぞっとする。
「死ぬまで迷路の中でさまよい続けるなんて……考えただけで恐くなってきちゃった」
「いまさら言っても仕方ないさ。もう迷宮の中なんだから」
「そうよ。そんなことよりはやく行きましょう」
リーゼロッテとセレーナは、すでに覚悟を決めているようだ。
「落ち着いてるね……二人とも」
わたしも腹を決めしかないのか……。
「ミオンさん、大丈夫ですよ。ちゃんと帰れますから。さあ、行きましょうか」




