第二十七話 体力測定1
ペーパーテストの分を取り返さなくちゃ。
わたしは、この体力測定に本気で取り組むことにした。
(あまり目立ちすぎるんじゃニャいぞ)
とにゃあ介が釘を刺す。
「でも、このままだと、落ちちゃうし……」
(まあほどほどにニャ)
まず全員が、別の部屋へ移動することになった。
並んで監督者について行くと、大広間に出た。
シルクハット先生は言った。
「それでは、ここからは、計測係の指示に従うように」
天井が、高い。まずそう思った。
その天井にある、明かりの灯ったシャンデリアのようなものに息をのむ。
複雑な形をしたその豪華なシャンデリアには、蝋燭が何本も乗っている。炎が揺れる度に、装飾が輝いて、周りに様々な模様の影を投げかけていた。
その広間に、計測器具らしきものがいくつか用意されている。
そして大きく三つのエリアに区切られていた。
私たちは受験番号順に、別々のエリアへと割り振られた。
「31番から60番の方はこちらで速力を測りまーす」
わたしたちを呼んだのは、わたしと同じぐらいの年代の女の子だった。あれは、おそらく魔法学校の生徒だ。つまり、受験生にとっては先輩にあたる人。
「三人ずつ走ってもらいます。わたしが合図したら、向こう側の壁を触って戻ってきてください」
計測係さんは慣れた口振りで説明する。
「まず31番から33番の人ー」
あ、いきなりわたしの番だ。緊張してきた。うまく走れるかな。転ばないようにしないと。
わたしが計測係さんのもとへ行くと、他にも二人の受験生が前に進み出てきた。31番さんと32番さんだろう。
「それでは、スタート……」
声と同時に、わたしは全速力で駆け抜ける。耳元で風を切る音が聞こえる。
壁に触って、また、びゅっと音を立てて戻ってくる。
「ふー、と……」
周りを見ると、みんなが口を開けて、ぽかんとこちらを見つめている。
ど、どうかな……けっこう速かったと思うけど。
「ちょ、ちょっとちょっと」
計測係の生徒さんが言う。
「私が手を叩いてから走ってください」
「な、何だ、フライングか……」
「なんか、めちゃくちゃ速くなかった?」
「気のせいだろ」
周りの受験生から声が漏れる。
(ばか者。急いてはことを仕損じる。無駄に目立つんじゃニャいと言ったにゃろ)
「しまった。失敗しちゃった」
わたしは頭を掻きながらスタート位置に戻る。
「もう一回やり直しますけど……」
計測係さんは、心配そうにわたしを見た。
「だ、大丈夫? 疲れてるなら後に回しましょうか」
わたしは、
「あ、大丈夫です。ごめんなさい。次はちゃんとやります」
と答えた。
再び位置について構える。
(これがオリンピックだったら一発で失格ニャ)
にゃあ介の言葉に、わたしは肝を冷やす。
(まあしょうがニャい。次は慎重に)
「それじゃあ……」
計測係さんは一つ咳をして、
「よーい、スタート」
そう言った後、パン、と手を打ち鳴らした。
わたしは慎重に様子をうかがう。
他の二人がスタートを切り、わたしの前を走り始める。
「何? あの子今度は全然動かないわよ?」
「何だ。やっぱりさっきのは気のせいだったのか」
「も、もういいよね」
わたしは確認してからゆっくりと走り始めた。
「ぷっ」と吹き出す声が聞こえる。
「遅っせぇ」
後ろで誰かが笑っている。
(今度は慎重すぎる……どうも極端だニャ)
よし、じゃあそろそろ……。
わたしは一気にギアをMAXに入れた。
足を高速で回転させて生んだ強い推進力で、ネコのように一瞬で最速に達する。
ここ数日のトレーニングでなんとなく身体の使い方がわかってきた。
走り込んでおいてよかった。
「……と。ただいま」
わたしが戻ってくると、みんな、しーんと静まりかえっている。
計測係さんも、あんぐり口を開けたまま、固まっている。
「も、もしかして、またダメでした?」
わたしが心配になって訊ねると、
「う、ううん。大丈夫です。じゃ、じゃあ次の三人……」
ああよかった。どうやらフライングじゃなかったみたい。
わたしが胸をなで下ろしていると、受験生の中の誰かが言った。
「まだ他の二人、帰ってきてませーん」




