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第二百七十三話 エリスの場合2

 振り返ると、ヨーゼフの前に三人の男たちが立っている。


「いいじゃねえか校章くらい」


 男たちはそう言うと、ヨーゼフの前を通り過ぎようとする。


「いかん!」


「ああ、持ってる持ってる」

「行こうぜ」


「待て! さてはお前たち入学生ではないな!」


 年寄りとは思えない強い口調でヨーゼフが言う。

 さすが魔法学校の門番を任せられているだけはある。


「だったら何だ?」

「いいだろう、それくらい」

「俺たちにも魔法を学ばせろよ」


 三人は口々に言う。


「ふん、おおかた入学試験に落ちたんじゃろう。おあいにく様じゃな」


 ヨーゼフが言う。


「なんだとジジイ!」

「この野郎!」

「ふざけやがって」


 男の一人がヨーゼフの胸ぐらを掴んだ。


「あんなインチキ試験は無効だ。試験料は返してもらう!」


 男がすごむが、ヨーゼフは一向にひるまない。


「試験料を返せじゃと? 情けない奴らじゃ」

「何ィ?!」


「殴ろうが、何をしようが、ここは通さん」

「こいつ!」


 男たちは三人でヨーゼフを掴むと、乱暴に引きずっていく。


「やめなさい!」


 誰かが叫んだ。

 ……と思ったら、それは私だった。


 他の生徒たちは遠巻きに見ているだけで、誰も止めようとしない。


「ヨーゼフさんを放しなさい」


 私はつかつかと歩み出る。


「なんだよ、ガキ」

「邪魔するな」


 男たちはヨーゼフの身体を掴んだまま、睨みつける。


「それともお前が相手をしようってのか」


 私は思う。男三人……ちょっと勝ち目はないわね。


 それでも、放ってはおけない。


「男三人で寄ってたかって……。あなたたち恥ずかしくないの」


「ようし分かった。お前からやってやる」


 男たちはヨーゼフを離すと、こちらに歩み寄ってくる。

 さて、これからどうしよう?


 私が一目散に逃げ出そうとしていると、男たちに向かって、二つの影が襲い掛かった。


「うわっ」

「なんだ?」


 二つの影は、あっという間に二人の男を叩き伏せる。


「何だ、お前ら……ぐあっ」


 最後の一人はさっと足を払っただけで、簡単に後ろ向きにひっくり返ってしまった。


「すごい!」


 私が感心していると、二人はパンパンと手をはたき、涼しい顔で、


「無作法なやつらだ」

「雑魚だな」


 それからヨーゼフに近寄る。


「ありがとう、たすかったよ」


 ヨーゼフが起き上がって手を挙げる。


「わしは大丈夫じゃ。かすり傷ひとつないわい」


 男たちをのした二人は、振り返ってこちらに歩いてくる。


「君、やるじゃないか」

「一人で立ち向かうとは、度胸があるな」


 私は思わず微笑む。

 短髪と、長髪の、あの二人だ。

 二人は、私の両側に立って振り返る。


 私たちは三人並んで、地面でのびている男たちを見下ろした。


 周りでは、他の生徒たちが私たちのことを見ている。


「よろしく、私エリスよ。魔法が使えたら色々便利かな、と思って入学したの」


 私は左にいる短髪の男の子に向かって、手を差し出す。

 この子はたしか言っていた。一人で勉強したい、と。


「僕はエスノザ。魔法学校へは、学術的興味があってやってきた」


 エスノザは私の出した手を握り返す。

 ちょっと堅いけれど、清潔で礼儀正しい感じのするこの男の子は、やはり好感が持てる。



 エスノザと握手したあと、私は右側にいるもう一人の、長髪の男の子に手を差し出して、微笑みかける。

 たしかこの子は、ミスター「群れる気はない」。すると、


「ヒネックだ。ここへきたのは、純粋に好奇心から。悪魔精霊の力を借りる? 面白いじゃないか」


 そう言うとヒネックは、にっと笑って見せる。

 その笑顔は人懐こくて魅力的だ。この男の子は、絶対笑っていた方がいい。私はそう思った。



 ヒネックは私と握手したあと、一歩出て、エスノザの方に向き直り、その手を差し出す。


 エスノザはにっこり微笑むとヒネックの手をしっかりと握った。


 空の晴れ間から、陽の光が注いでいた。




 ヨーゼフに難癖をつけていた三人の男が、うめきながら起き上がる。


「おまえら、よくもやってくれたな」


 こちらをぎろり、と睨みつける。


「目が覚めました?」


 私は言う。


「正々堂々と入学してはどうですか。また来年、試験があるんですから」


「なんだと?」

「このアマぁ!」


 私は身構える。


「まだこりませんか? 女だからって甘く見ないでください。それに――」


 私はちらっと両隣を見る。


「私の友だちも黙ってないかも」


 ヒネックとエスノザが、一歩前へ出る。


 男たちは顔面蒼白になると、


「おおお、覚えてやがれ!」


 そう言い残して転がるように門を出ていった。



「友だちだって?」


 エスノザが言う。


「いけなかった?」


 私が二人に訊ねると、ヒネックが空を見上げる。晴れ間はどんどん広がっていた。


 ヒネックはこう言った。


「ま、それも悪くないか」


 それが私たちの出会いだった。


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