第二百七十二話 エリスの場合1
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私の名はエリス。
何の変哲もない田舎の村、だけど美しい自然に囲まれた村……私はそこで暮らしていた。
村での平和な暮らしも大好きだったけれど――私は、魔法に興味を持った。
ルミナス魔法学校へ入学した私は、そこで生涯の仲間と出会った。
私たち三人は、まるで生まれたときから決まっていたかのように、固い友情で結ばれていた。
毎日のように一緒に魔法を学び、訓練をした。
共に笑ったり、怒ったり、泣いたりして、学生時代を過ごした。
そしていつしか、私たち三人は冒険者になった。
私たちの絆は永遠のものだと思っていた。ずっと一緒に冒険を続けられるものだと。
けれど――
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魔法学校入学初日、多少の緊張感と大きな期待感を胸に、私は石造りの門をくぐった。
門はアーチ状になっていて、それをくぐり抜けた先に、まるで荘厳なお城のような校舎がそびえ立っている。
曇りがちの空を背景に、青い校舎が映える。
「ううん」
私は思う。きっと、どんな背景にも映える。雨も雪も、もちろん晴れの日だって。
これから毎日あの校舎に通うんだ。なんだか気分が盛り上がってくる。
門番はヨーゼフという細身の老人で、かなりの齢に見えた。
「はいはい、皆さんよくきたね。ルミナス魔法学校へようこそ」
ヨーゼフは老人特有のしゃがれた高い声で、生徒たちを迎え入れていた。
周りには、魔法学校への入学で興奮し、顔を紅潮させた生徒たちがたくさんいる。
けれど、離れた村からやってきた私には、顔見知りなどいない。
「知り合いを作っておきたいな……」
私はそう思い、辺りを見渡した。
「こんにちは!」
私は一人の少女に声をかける。
彼女は私よりも背が低くて、髪の色は薄い茶色だった。
「私エリス。あなたのお名前は?」
少女は私をじっと見つめると、黙ってそそくさと校舎へ向かって歩いていってしまった。
「失敗、しっぱい」
返事すらしてもらえなかった……。
私は気を取り直して、今度は私と同じくらいの背丈の、私と同じ、黒髪の女の子に声をかける。
「こんにちは」
「こんにちは……あなたは?」
返事してもらえた! 私は少しうれしくなる。
「エリスっていうの。あなたのお名前は?」
私が訊ねると、女の子は、
「私は、エイミーっていうのよ」
と答える。
「はじめまして、エイミー。できたら、私とお友だちに……」
言いかけたとき、
「エイミー、行くわよ!」
そう別の声がする。
見ると、少し先の方で、赤毛の子がエイミーを呼んでいる。
「ごめんなさい」
そう言うと、エイミーも急いで立ち去ってしまった。
「う~ん」
私はうめく。何だか空も、よりどんよりしてきた気がする。
「まだまだ」
私は今度は、男の子に声をかけてみることにする。
短髪の、清潔そうな身なりの男の子が、丁度隣を通りかかる。
「あの、こんにちは」
男の子は、こちらを見て、
「やあ、こんにちは」
と言う。
「魔法学校へ来るのは初めて?」
「ああもちろん。なかなか良いところだね」
彼は笑顔を見せてくれた。
「ねぇ、よかったら、お友だちになってくれないかなぁ? ……なんて」
私は言ってみた。すると、彼は、
「すまないが、勉強には一人で集中したいんだ」
本当にすまなそうに、そう言う。
「いいのいいの。気にしないで」
そう言ったものの、さすがにちょっと落ち込む。
短髪の男の子と別れ、
「頑張って、もう一人だけ声をかけてみよう……」
私はまた辺りを見回す。
「こ、こんにちは……」
私が声をかけたのは、ウェーブのかかった長髪の黒髪が特徴の男の子だった。
「わ、私とおともだちに……」
「群れる気はない」
男の子はぴしゃりと言った。
そのまま、すたすた歩いていく。
私は呆然と立ち尽くす。
空の雲が、断然、灰色の濃さを増しているように感じる。
「ぐっ」
私は何とか気を立て直そうとする。
「でも雨が降り出すほどじゃない。ほら、あそこに晴れ間も見えるし」
そうやって持ち直し、校舎の方へ向かおうとする。
背後で、何か騒ぎ声がした。
門番のヨーゼフの、しゃがれた叫び声が上がる。
「こら、お前たち校章をしとらんじゃないか!」




