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第二百七十二話 エリスの場合1

 ――――――――――


 私の名はエリス。

 何の変哲もない田舎の村、だけど美しい自然に囲まれた村……私はそこで暮らしていた。


 村での平和な暮らしも大好きだったけれど――私は、魔法に興味を持った。



 ルミナス魔法学校へ入学した私は、そこで生涯の仲間と出会った。

 私たち三人は、まるで生まれたときから決まっていたかのように、固い友情で結ばれていた。


 毎日のように一緒に魔法を学び、訓練をした。

 共に笑ったり、怒ったり、泣いたりして、学生時代を過ごした。


 そしていつしか、私たち三人は冒険者になった。


 私たちの絆は永遠のものだと思っていた。ずっと一緒に冒険を続けられるものだと。


 けれど――




   ◆




 魔法学校入学初日、多少の緊張感と大きな期待感を胸に、私は石造りの門をくぐった。

 門はアーチ状になっていて、それをくぐり抜けた先に、まるで荘厳なお城のような校舎がそびえ立っている。


 曇りがちの空を背景に、青い校舎が映える。


「ううん」


 私は思う。きっと、どんな背景にも映える。雨も雪も、もちろん晴れの日だって。

 これから毎日あの校舎に通うんだ。なんだか気分が盛り上がってくる。



 門番はヨーゼフという細身の老人で、かなりの齢に見えた。


「はいはい、皆さんよくきたね。ルミナス魔法学校へようこそ」


 ヨーゼフは老人特有のしゃがれた高い声で、生徒たちを迎え入れていた。


 周りには、魔法学校への入学で興奮し、顔を紅潮させた生徒たちがたくさんいる。

 けれど、離れた村からやってきた私には、顔見知りなどいない。


「知り合いを作っておきたいな……」


 私はそう思い、辺りを見渡した。



「こんにちは!」


 私は一人の少女に声をかける。

 彼女は私よりも背が低くて、髪の色は薄い茶色だった。


「私エリス。あなたのお名前は?」


 少女は私をじっと見つめると、黙ってそそくさと校舎へ向かって歩いていってしまった。


「失敗、しっぱい」


 返事すらしてもらえなかった……。

 私は気を取り直して、今度は私と同じくらいの背丈の、私と同じ、黒髪の女の子に声をかける。


「こんにちは」

「こんにちは……あなたは?」


 返事してもらえた! 私は少しうれしくなる。


「エリスっていうの。あなたのお名前は?」


 私が訊ねると、女の子は、


「私は、エイミーっていうのよ」


 と答える。


「はじめまして、エイミー。できたら、私とお友だちに……」


 言いかけたとき、


「エイミー、行くわよ!」


 そう別の声がする。

 見ると、少し先の方で、赤毛の子がエイミーを呼んでいる。


「ごめんなさい」


 そう言うと、エイミーも急いで立ち去ってしまった。


「う~ん」


 私はうめく。何だか空も、よりどんよりしてきた気がする。


「まだまだ」


 私は今度は、男の子に声をかけてみることにする。

 短髪の、清潔そうな身なりの男の子が、丁度隣を通りかかる。


「あの、こんにちは」


 男の子は、こちらを見て、


「やあ、こんにちは」


 と言う。


「魔法学校へ来るのは初めて?」

「ああもちろん。なかなか良いところだね」


 彼は笑顔を見せてくれた。


「ねぇ、よかったら、お友だちになってくれないかなぁ? ……なんて」


 私は言ってみた。すると、彼は、


「すまないが、勉強には一人で集中したいんだ」


 本当にすまなそうに、そう言う。


「いいのいいの。気にしないで」


 そう言ったものの、さすがにちょっと落ち込む。

 短髪の男の子と別れ、


「頑張って、もう一人だけ声をかけてみよう……」


 私はまた辺りを見回す。


「こ、こんにちは……」


 私が声をかけたのは、ウェーブのかかった長髪の黒髪が特徴の男の子だった。


「わ、私とおともだちに……」


「群れる気はない」


 男の子はぴしゃりと言った。

 そのまま、すたすた歩いていく。


 私は呆然と立ち尽くす。

 空の雲が、断然、灰色の濃さを増しているように感じる。


「ぐっ」


 私は何とか気を立て直そうとする。


「でも雨が降り出すほどじゃない。ほら、あそこに晴れ間も見えるし」


 そうやって持ち直し、校舎の方へ向かおうとする。


 背後で、何か騒ぎ声がした。

 門番のヨーゼフの、しゃがれた叫び声が上がる。


「こら、お前たち校章をしとらんじゃないか!」


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