第二百六十八話 あたらしい魔法4
「行きます!」
わたしは大きく息を吸い込む。
両手を前へ出し、唱える。
「聖風よ来たれ、大なる天の力ここに満ちよ――聖なる刃!」
叫んだ瞬間、まぶしい光が辺り一面を照らした。
閃光がわたしの手から放たれ――正面の木の幹めがけて駆け抜ける。
「なんだ!?」
生徒たちの声が上がる。
わたしは両手を突き出したまま、じっと前方を見つめる。
バキィッ!!
幹に光の刃が突き刺さったと思った次の瞬間、大きな音を立てて木が倒れた。
「おぉー!」
生徒たちから感嘆の声が漏れる。
「やった……できた!」
思わず両手をぐっと握りしめるわたし。
セレーナとリーゼロッテも、
「さすがね、ミオン!」
「おどろいたな!」
と喜んでくれる。
生徒たちは、切断された木の周りに駆け寄って、
「すげえなあ、この断面を見ろよ」
「鋭い刃物で切断したみたいね!」
と、盛り上がっている。
わたしはエスノザ先生の方を見る。
先生は手を叩きながら、笑顔で言った。
「素晴らしいです、ミオンさん。今のは最高の出来ですね」
◆
「やっぱり、ミオンは想像力が違うのかしら」
授業が終わり、学校からの帰り道、セレーナがそう褒めてくれる。
わたしは首を振って、こう答える。
「ていうか……アニメクリエイターの方々の想像力に感謝、って感じかな」
「なんだって?」
リーゼロッテが訊き返す。
「ううん、なんでもない」
ぺろっと舌を出すと、わたしは小走りに並木道を駆ける。
くるりと振り返り、手を振って二人を呼ぶ。
「はやく練習場に行こうよ!」
二人は一瞬顔を見合わせ、ぷっと、吹き出す。
「そうあせるな、ミオン」
「今行くわ」
わたしたち三人は、北の練習場に向かって、笑顔で走り出した。
◆
魔法の授業を真剣に受けた放課後は、いつもどおり練習場で鍛錬を行う。
素振り百回、的当て五十回をこなして、魔法の練習。
もちろん、今日は新魔法の特訓だ。
新しい魔法を覚えたら、早く使いたくてうずうずしちゃうよね!
「さあ、いくぞー!」
わたしは両手を前に突き出し、呪文を唱える。
「汝、冬の精霊よ、冱てつく息吹もて打擲せよ――フローズンエッジ!」
パァン!
わたしの手から出た氷塊が木の幹に当たり、高い音を立てる。
「おぉー!」
セレーナとリーゼロッテが拍手する。
粉々に砕け散った氷が、ばらばらと落ちてくる。
「えへへ。次は……」
わたしはもう一度木立に向かって構え直し、唱える。
「聖風よ来たれ、大なる天の力ここに満ちよ――聖なる刃!」
ズバァッ!!
手から放たれた光の刃が、幹ごと枝を切り落としてしまう。
「うわぁ……」
自分でやっておいてなんだけど、ちょっとやりすぎたかも……。
「もう完全にものにしてるわね!」
「しかも、威力が上がっている……さすがだな」
二人が驚きとともに褒めてくれる。
「ありがとう」
わたしは笑って、
「……次は二人の番だよ!」
そう言うと、二人はちょっと躊躇したあと、
「ええ」
「わかった」
とうなずく。そして、
「では、教えてくれ、ミオン」
「えっ」
「私とセレーナはまだいまいち掴めていないからな。やり方を指南してもらわねば」
「先生役はあなたよ」
セレーナとリーゼロッテはわたしにそう言う。
わたしは照れ笑いを浮かべつつ、
「わたしに先生ができるかどうかわかんないけど……やってみるよ」
「えへん」と、ひとつ咳をしてから、二人に向かってわたしは言った。
「それじゃあ、二人とも、構えて!」




