第二百六十四話 約束したから
「ルミナス魔法学校は、わたしたちが守ります!」
わたしが言うと、校長先生は少し驚いたように目を見開き、そして笑った。
「ふぉっふぉっふぉっ」
校長先生はこちらをじっと見て、
「頼もしい生徒たちぢゃ」
と言って、大きな椅子に背中を預けた。
「わしも見習わねばならんの」
「それじゃ……?」
「学校は続ける。きみたちに学んでほしいことがまだまだたくさんあるしのう」
◆
校長室を出ると、わたしたちは急いで教室に向かう。もうすぐ授業が始まる。
「びっくりして、つい叫んじゃった」
わたしは頭を掻く。
「だって校長先生、閉校なんて言うんだもん」
「いえ、私たちもミオンと同じ気持ちよ」
前を向いたまま、セレーナが言う。
リーゼロッテも同じように、前を見ながら言った。
「ミオンが言い出さなければ私が言ったさ」
わたしたちは小走りに廊下を走る。
ふと思いついて、わたしはこう口にする。
「でも、どうして魔法学校を狙ったりするんだろう? ……魔法は弱いのに」
「ミオンは別としてね」
「ミオンの魔力は別格だからな……」
「えへへ」
照れながら、言う。
「……もっともっと頑張らなくちゃ。先生と、約束したから」
「何を?」
そう訊ねる二人に、わたしは元気いっぱいで答えた。
「魔法学校を守るって!」
◆
それから二、三日は学外授業でのクラーケン騒ぎで持ち切りだったが、やがてそれも落ち着き、いつも通りの授業風景が見られるようになった。
薬草学ではエオル先生が、新しく発見した薬草の薬効について興奮しながら話し、退屈した生徒たちは居眠りをしている。
魔物学の授業ではガルバルド先生が、新しく『魔物の味について』という奇妙な授業を始めて、生徒たちに引かれていた。
クラーケンを食べたわたしは、なんだか居心地が悪くてずっと俯いていたのだった。
授業も終わり、わたしとセレーナ、リーゼロッテの三人で学校からの帰りの並木道を歩いている。
わたしは二人に話を切り出す。
「考えたんだけど」
「え?」
「何だ?」
「やっぱり、旧極魔法が必要だと思うんだ」
二人はきょとんとする。
「ほら、学校を守るためにさ。強力な魔法、要るよね?」
セレーナとリーゼロッテは、
「確かにそうかもしれないわね」
「そうだな……。旧極魔法の正体はまだわからないが、それを修得するに越したことはないかもしれない」
と同意する。
「旧極魔法に必要なアプシントスは、魔族領にあるから、しばらくは取りに行けない」
わたしは考えをまとめながら話す。
自然と足取りがゆっくりになる。
学校からの下り坂にある並木は、もう色が変わり始めているものもある。時が経つのはなんて早いんだろう。
「カライの長老さまも、エオル先生も、『いくつか素材が必要』って言ってたね……具体的にはいくつ必要なんだろう?」
わたしが言うと、
「わからないわ。とりあえず、ヴァルリヤ石とアプシントスは確定しているのだけれど……」
「うーむ。情報が足りないな」
二人も腕組みして考えこむ。
結局三人とも立ち止まってしまった。
並木の真ん中で、三人揃って頭を悩ませていると、
(彼に訊ねてみてはどうニャ?)
にゃあ介が言った。
「彼って?」
(いるではニャいか。旧極魔法を追っている人間がもう一人)
「そういえば……」
わたしは思い出す。
その人物は、一度、旧極魔法の復活をわたしたちに任せようとした。
けれど、それはうやむやになってしまった。
そしてその人物は、旧極魔法を復活させようとして、怪我を負ったのだ……おそらく。
「……うん、訊いてみよう、あの人に」
「何ですって? ミオン」
「え? 誰に訊くって?」
訊き返す二人にわたしは答える。
「覚えてない? 旧極魔法に一番詳しそうな人。ちょっと気難しいから、教えてもらうのは骨かもしれないけれど」
二人が顔を上げる。ピンときたという表情だ。
「そう……ヒネック先生だよ!」




