第二百五十六話 クラーケン1
ジェイクの合図で、全員が一斉に、上陸してくるクラーケンの周りへ散開する。
「メティオ、後方支援たのむ。ルーベンダイク、ジュナ、左右に展開して敵をかく乱してくれ」
ジェイクは指示を出す。
「心得た」
「任せてねん」
「……了解」
「君たちは……」
ジェイクがリーゼロッテを見る。
彼の後を受け取って、リーゼロッテが指示を出す。
「私が後方より援護する。セレーナ、ミオンはジェイクと敵を叩け」
「わかった!」
「まかせて!」
わたしとセレーナはそれぞれ返事をする。
「よし」
ジェイクがうなずく。
わたしは野営地の方を確認する。
ガルバルド先生が、生徒たちを誘導している。
「高台へ! 速やかに!」
先生が言う。
なるべく魔物の姿が生徒の目に入らないように、生徒たちを誘導しているのだ。
聴こえてくる声に耳を澄ます。
恐怖に怯える者、何が起きているのかわからずに夜中に叩き起こされて戸惑う者、それでもみんな指示に従っているようだ。
「何があったの?」
「わかんない。でも、なんかヤバそう……」
生徒の何人かが、不安そうに話している。
また別の何人かは、
「は、はやくはやく!」
「逃げろぉ!」
と叫んでいる。
彼らはクラーケンの姿が目に入ったのだろう。
とにかく、生徒たちは続々とテントから出て、避難を始めている。
その様子にほっとしながら、わたしは魔物に向き直る。
クラーケンの大きさに改めて圧倒され、武器を強く握りなおす。
ちょうどその時―――
「なんなんだいったい?」
眠そうな声がわたしの耳に届く。
もう一度振り向くと、そこには目をこすりながら立っているケインがいた。
「そこの生徒! はやく高台へ!」
ガルバルド先生が慌ててケインを引き戻そうとする。
「危険な魔物が……」
「魔物?」
ケインの声色が変わる。
「魔物だって? そうか……それじゃあ僕の出番だ!」
ケインはうれしそうに言う。
「安心しろみんな。僕が守ってやる」
「馬鹿なことを言ってないで、はやく戻りなさい!」
そう言うガルバルド先生の手を振りほどきながら、ケインはこちらへ歩き出そうとする。
わたしはあせる。
「ちょっと、今こっちに来られたら……」
(足手まといどころの騒ぎではないニャ)
にゃあ介も同意する。
「ハハッ、僕に任せろ」
ふんぞり返りながら歩くケイン。
「僕にかかればスライムなんて……」
ケインの足がぴたり、と止まる。
「う、うわあぁぁーー!?」
クラーケンの姿を見た途端、腰を抜かすケイン。
「ば、化け物だぁーー!!」
そう言い残して、ケインは這う這うの体で引き返していった。
その姿を見ながら、わたしは思わずため息をつく。
「セレーナ、用意はいい?」
そう訊くと、セレーナはわたしの目を見てうなずく。
すでにメティオのパチンコ攻撃が始まっている。
リーゼロッテも、敵に向かって矢を射り始めている。
「ジェイク、行こう!」
「ああ!」
わたしたちは敵の側面に回り込むように走る。
ざざっ、と砂の上を駆けながら、わたしは思う。
「いける!」
ジェイクとリーゼロッテ。二人の素早い指示で、あっという間に戦略が決定した。
メティオとリーゼロッテによる、パチンコと弓の援護。
ジュナとルーベンダイクが敵の気を引いている間に、わたしたちが横から攻撃を加える。
即席とはいえ、確実な作戦だ。
これなら勝利は固い!
そのときは、そう思えた。




