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第二百五十三話 野営

 わたしたちは皿にスープを盛り、各自に配っていく。


「わ! なにこれ?」


 見慣れないスープに生徒が驚く。

 

「ミオン特製ミネル……なんだったかな?」

「ミネストローネ。食べたら感想聞かせてよ」


 一通り配り終えると、ガルバルド先生が言う。


「それではみなさん、いただきましょう」




   ◆




「おいしい!」

「うん、うまい!」


 みんなの声に、わたしは頬が緩む。


「ほんと?」


「この野菜の甘みと……」

「たっぷり入ったトルプの酸味!」

「ああ、最高のバランスだ。うますぎる!」


 わたしたちの班のスープがみるみる減っていく。


「やった。大成功だね」


 ふと、背後に視線を感じる。

 振り向くと、監督役のイェルサの稲妻のメティオがこちらをじーっと見ていた。


「メティオちゃんも食べる?」


 メティオの目がキラーンと光る。


 わたしはメティオに席を勧めると、ミネストローネをお椀によそって彼女に渡す。

 彼女はわたしからスープを受け取ると、ぱくぱくと食べ始める。


「どう?」


 メティオは夢中で黙々とスープを食べ続ける。

 一通り食べ終わると、お椀をコトンと置く。


「……美味。こんなスープ、はじめて」

「よかった!」




 結局、わたしたちのスープだけ、真っ先にすっからかんになってしまった。


「ふー、食った食った」


 皆、満足そうにお腹をさすっている。

 わたしも、


「シンプルな野菜スープとパンだけだけど、おいしかったね!」


 と感想を述べる。


「やっぱり、素材の味を生かした料理が一番だな」


 とリーゼロッテ。


「ええ。自分たちで作ったから一層おいしいのね」


 とセレーナ。

 他のみんなも、


「おいしかった」

「また、他の料理も作ってくれよ」


 そう口々に言ってくれる。


 いつのまにかわたしたちと同じ席についていたイェルサの稲妻の他の面々も、


「うん、おいしい!」

「うまいですな」

「おいしいわよん」


 と感想をくれる。


 ガルバルド先生や、ユナユナ先生、エスノザ先生まで、


「とてもおいしかったです。これはネコ族の料理ですか?」

「これは大したものだわ。正直、野営の晩御飯には期待していなかったのだけれど……」

「ぜひまたご馳走になりたいですね」


 と、褒めてくれた。


「もちろんです。喜んで!」


 自分の作った料理を食べて、満足そうな顔をしている。

 そんな皆の顔を見て、なんだか嬉しい気持ちになった。




   ◆




 食事のあとは片づけだ。


 食器類を洗うには、また水魔法の出番。


「さて、洗うか!」

「こっちの鍋をお願い」

「魔力の加減に気をつけてな」


 わたしたちは、それぞれ魔法を使って洗い物を片付けていく。


「ふう、これで終わりかな?」


 ひととおり洗い終わると、ガルバルド先生が言う。


「点呼をとったら、各々テントに入ってください。今日はおつかれさまでした」


 ジェイクも、


「みんなおつかれ。ゆっくり休んでね」


 と声をかける。

 それでわたしたちは、思い思いにテントへ入り、寝袋にもぐりこんだ。




   ◆




「いやあ、やっぱり楽しいね、学外授業!」

「ふふ、そうね。たまにはこういうのもいいものね」

「たしかに。いい気分転換になるな」


 寝袋に包まりながら、わたしたちはそんな会話を交わした。


「でも、せっかく護衛係を頼まれたのに、あんまり役に立つようなこと、してないね」


 わたしは言う。


「ジェイクたちは、外で見張りをしてるんだよね。手伝った方がいいかな?」


 と訊ねる。

 だが、


「いいんじゃないかしら……私たちが頼まれたのは、万が一の事態に備えてだもの」

「ああ。護衛役の前に、私たちは一生徒だ。今回は彼らに甘えよう」


「そっか、そうだよね」

「もう寝ましょう。明日も早いわ」


「えー、もっとお話ししようよ~」

「また出たか、ミオンの悪い癖が。……寝るぞ」


「旅行の夜といえば、みんなで夜更かしでしょー?」


 しかし、すでにふたりはスヤスヤと寝息を立て始めている。


(ミオンもさっさと寝るニャ)

「もー、つまんないの」


 仕方なく、わたしも目を閉じる。

 思ったより疲れていたのか、すぐに眠りに落ちていった。




   ◆




 深夜。

 なんとなく目が覚める。


 壁の窓を見上げようと身を捻って、思い出す。


「あ、そうか。今、学外授業に来てるんだった。」


 寝ぼけまなこをこすって、あくびをする。


「あー、もいっかい寝よっと」


 寝袋の奥へ潜り込もうとしたとき、身じろぎする音がする。

 隣を見ると、セレーナが身体を起こしている。


「どうしたの? セレーナ」


 セレーナは眉を寄せ、


「いえ……何か……」


 とつぶやく。


「?」


「なんだ、ふたりとも」


 リーゼロッテの声。


「あ、ごめん。起こしちゃった?」

「いや、ちょっと前に目が覚めていた」


「三人揃って目を覚ますなんて、わたしたち仲良しトリオだね……」


 わたしがそう言いかけたとき、頭の中で声がした。


(ミオン、注意しろ)


「え、なに? にゃあ介」


「なにかしら……大気が震えているみたい……」


 セレーナが言う。


「え?」


 なんだろう、急に。

 寝起きなのに、何故か急に緊張感が高まるのを感じる。


 わたしは全身の感覚を集中させてみる。

 たしかに大気がわずかに震えていた。


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