第二百四十八話 海岸線
「到着~、到着~!」
御者さんの声が聞こえてくる。
馬車から降りると、目の前に広がる景色に、
「うわぁ……!」
わたしは思わず声を上げた。
青い空の下、一面の海が広がっている。砂浜は白く輝いていてまぶしい。
「綺麗だぁ……」
額に手をかざして、目を細める。
(潮の香りがするニャ)
「ほんとうだ。いい匂い」
ざざん、ざざん……。寄せては返す、波の音。
海岸線の遠くに、白い崖が見えていて、その周辺は木々で覆われている。
結構広い森のようだ。
「透明な海。いいなあ!」
わたしが海を眺めている間に、すべての馬車が海岸近くに到着し、生徒たちが降り立った。
先生たちも馬車から降りてきて、腰を伸ばしている。
エスノザ先生、ガルバルド先生、ユナユナ先生の姿が見える。ヒネック先生、ショウグリフ先生、エオル先生は、今回はついてきていないようだ。
それから、イェルサの稲妻の面々も、すでに馬車を降りて辺りを見回している。
彼らが護衛なら、心強い。
……って、自分も護衛を頼まれているんだったっけ。
ぽりぽりと頭を掻く。わたしたちの出番なんて、あるのかなあ。
「さて、ここが今回の目的地です」
ガルバルド先生がみんなに聞こえるよう、大きな声で話す。
「馬車旅で疲れているでしょうから、しばし休憩にします。持参した昼食をとってください」
先生の言葉が終わると同時に、生徒たちがわらわらと浜辺へ向かって歩き出す。
みんなの後ろからエスノザ先生の声が、響く。
「必ず複数人で行動するように!」
「森へ入らないように!」
とジェイク。
「わたしたちも行こう」
わたしたちは荷物を手にすると、波打ち際まで歩いていく。
白い砂浜で裸足になると、足の裏に伝わる感触が面白い。
「気持ちいい!」
砂を踏みしめながら歩くと、さくさくと音を立てる。
「ふむ」
「あら」
リーゼロッテとセレーナも真似て靴を脱ぎ、素足をさらす。
「なかなか心地よいものだな」
「ほんとね」
「じゃあ、お昼ごはんにしよう!」
わたしは持ってきた籠を開ける。中にはサンドイッチが入っている。
お水の入った木の水筒も用意してある。
朝、アルトリーチェ寮の炊事場で、わたしたち三人が作ったものだ。
「いただきます」
ぱくっ。
「うん! おいしい」
「うむ。野菜がしゃきしゃきしてるな。しかしパンの間に食材を挟むなんて、おもしろい料理だな」
「美味しいわ。昨日ふんぱつして、いい材料を仕入れた甲斐があったわね」
「海を見ながら食べるごはんは最高だね」
わたしは口いっぱいにサンドイッチを頬張りながら言う。
(もうちょっと、ゆっくり食べたらどうニャ)
にゃあ介がたしなめるが、
「だって美味しいんだもん」
あっという間に食べてしまう。
「ああ……もうなくなっちゃった」
(だから味わって食えと言っているのにニャ……)
「ミオン、これひとつ食べてもいいわよ」
嘆いているわたしを見かねて、セレーナが籠を差し出してくれる。
「ほんと? ……ありがとうセレーナ!」
「私のもいいぞ」
「リーゼロッテも? あなたたち、聖人なの?!」
感動に涙ぐむわたし。
(……太るニャ)
わたしの手がピクッと止まる。……が、
「今日だけ、今日だけ」
そう言って、わたしは二人の優しさに感謝しながら、パンをかじるのだった。
潮風がわたしたちの髪を揺らしていく。
波の音が静かに耳に届く。
穏やかな時間が流れる。
そしてわたしは、ぽつりとサンドイッチの感想を漏らす。
「おいし~」




