第二百四十四話 連絡事項
製薬機は完成したし、幽霊騒ぎも収まった。
わたしたちの授業後の行き先は、もっぱら例のトレーニング場だった。
「旧極魔法に必要な素材は、アプシントスだけじゃないんだよね」
わたしはトレーニング場に向かう道すがら、二人に話しかける。
「そうね。そのあたりの情報も、手に入れないと」
セレーナが答える。
「ああ。だが、やはり厄介なのは魔族領にあるというアプシントスだ。一筋縄ではいかないだろう」
「エオル先生は、魔族に手出しはするな、って言ってたけど」
「魔族は危険よ。それはわかっているわ」
「できれば戦いたくない相手だな」
「そっかー。そんなに強いんだ……」
わたしはつぶやく。
話しているうちに、北のトレーニング場に着いた。
「さあ、それじゃ練習開始ね!」
セレーナが宣言する。
「うん!」
わたしは気合いを入れて返事をする。
「よし、やるか」
リーゼロッテも応じる。
わたしたちは、魔法の試し打ちをしたり、それぞれの武器の熟練度を高める訓練をした。
魔族と戦うつもりはない。
戦わずしてアプシントスが手に入るなら、それに越したことはない。
けれど、何が起きるかわからない。
そのことを意識して、わたしたちは訓練に打ち込んだ。
「とにかく、焦らず着実に、準備を整えよう!」
◆
魔法学校での二年目も数か月を過ぎた。
ルミナスの気温はぐんぐんと上がり、授業を受けているだけで汗ばむほどだ。
みんなが暑さに辟易とする中、エオル先生は製薬機を使って夏バテに効くスタミナ薬を生産しようと奮闘していた。
しかし、その薬を最も必要としているのは、暑さの中踏み車の中で走り続けるエオル先生自身のようだった。
そんな日々のことだった。
ある朝登校すると、校庭の西に人だかりがしている。
「なにかしら?」
セレーナが首をかしげる。
「掲示物があるみたいだぞ」
リーゼロッテが校舎西の壁の方を指さす。
わたしたちは、人ごみをかきわけて歩いていった。
「なんだろ?」
わたしたち三人は背伸びをしながら、前に並ぶ生徒たちの頭越しに、その掲示物を読んだ。
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<重要>連絡事項
対象:魔法学校の二回生生徒全員。
翌週より、二回生生徒はクラス毎に、学校外での実践授業を実施いたします。
・当日は、学校集合。
・馬車にて現地へ移動し、夜は野営します。
・授業は二日間の予定。
・本校教師陣が引率します。
・イェルサの稲妻の面々に護衛をお願いしてあります。
・期間中、ほかのクラスの授業はお休みとする。
・雨天決行。
なお、この学外授業では多少の危険を伴うため生徒本人の同意が必要となります。
参加の有無を直接事務まで知らせるように。
以上
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「これは……?」
わたしはリーゼロッテとセレーナの顔を見る。
二人は顔を見合わせた後、口を開いた。
「こんなの、噂すら聞いていなかったわ……」
「うむ。私も初耳だ」
「学外授業だって!」
「ずいぶん急ね。翌週出発なら、もうあまり時間はないわ」
「そうだな。それにしても野外で泊まりとは……」
「多少の危険って、いったいどんな授業をする気なのかしら……」
と、いろいろ疑問は尽きないが、
「とにかく、行こうか」
わたしは歩き出す。
「ちょっとミオン」
「どこへ行く気だ?」
慌ててついてくる二人に、
「え? 事務に決まってるでしょ」
わたしは言う。
「絶対参加するもん!」




