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第二百四十三話 モノアイ・クリーパー召喚

「目玉の化け物と対峙したですって!?」


 ガルバルド先生は驚いた顔で言う。


「いやはや……あれは、モノアイ・クリーパーという、とても珍しい魔物なんです」


 その先生のすぐ後ろに、目玉の化け物の絵が貼ってある。今見ると、よくできた絵だ。


「怪我はありませんでしたか?」

「はい、大丈夫です!」


 わたしはグッと両手を握ってみせる。


「あいつはかなり手ごわい魔物のはずですが……さすがですね」


「先生、これを……」


 わたしはポケットから魔石を取り出す。


「おお! これはモノアイ・クリーパーの魔石!」


 先生は興味深そうに、魔石を眺める。


「どうぞ、差し上げます」


 わたしは言う。セレーナとリーゼロッテとも話し合って決めたことだ。

 しかし先生は首を横に振り、


「そういうわけにはいきません。見せていただいただけで満足です」


 と断った。


「そうですか……」


 返された魔石を、わたしは受け取る。


「それにしても、動いているところをぜひこの目で見てみたかった!」


 先生は、壁に貼ったモノアイ・クリーパーの絵を見ながら口惜しそうに言う。

 わたしとセレーナとリーゼロッテは、顔を見合わせる。


「あの、先生。よかったら、もうひとつ見ていただきたいものがあるんですけど」

「なんです?」


 わたしは微笑んで言った。


「あの目玉の魔物……モノアイ・クリーパーです」

「それは一体どういう……」


 言いかけて、はっとしたようにガルバルド先生は目を見開く。


 先生は興奮を抑えられない様子で言った。


「闘魔術、ですね!?」




   ◆




 わたしたちは、校庭の隅の一角に来ていた。


 ここは土がむき出しの地面で、大きな木がある。

 さすがに、校庭のど真ん中で目玉の化け物を呼び出すのはためらわれたので、わたしたちはその大きな木の下にいる。


「いいですか? 先生」

「はい。いつでも大丈夫です」


 ガルバルド先生は、目を輝かせている。

 わたしは、魔力を練ると呪文の詠唱に入る。


「我が傍なる霊魂よ、小さき者に乗りてとび、その翼にて翔けり給え……ブラストスピリット!」


 先生は固唾をのんで見守っている。わたしは両手を前へ突き出し、唱えた。


「胡桃沢美音の名において命ず――」


 そして召喚がはじまる。


「出でよ、モノアイ・クリーパー!」




   ◆




 つむじ風でも起きたみたいに、ざざっと砂が舞い上がる。

 舞い上がった砂は、ひとところに吸い寄せられるように集まる。

 そして下の方から組み上がっていく。

 SF映画に出てくるタコ型の火星人みたいな足がまず現れ、それから大きな目玉を持つ頭部が出現する。


「おお……」


 まるで畏敬の念に打たれたかのように、ガルバルド先生は両手を擦り合わせて深いため息を漏らす。


「モノアイ・クリーパー……!」


 先生はつぶやくように言う。


「まさかこんなところでお目にかかれるとは……」


 それからこう続ける。


「モノアイ・クリーパーは、その体躯の割に素早く、目玉の周囲にある触手のような器官から繰り出される酸も強力です。それを相手によく無事ですみましたね」


「えへへ」


 わたしは頭を掻く。


「本当にすごいというほかありません。それに……」


 先生は言った。


「それに、このモノアイ・クリーパーは、私の大好きな魔物でしてね」


 先生は拳を握る。


「実に愛らしいと思いませんか! このフォルム! この立ち姿!」

「え?」


 ガルバルド先生の目はキラキラしている。


「愛らしい?」


 わたしは、召喚されたモノアイ・クリーパーをもう一度よく見てみる。


 うねうねと蛇のように動く何本もの管はヘビのようで、それこそメデューサの頭のようだ。

 そしてその中心にある大きな目玉は血走っている。


 愛らしいという言葉とは程遠い……というか、真逆では?


「グェッ……グェッ……」


 モノアイ・クリーパーが鳴く。

 わたしは顔がひきつりそうになるのを、必死で抑える。


「いやあ、すばらしい。ほれぼれしますね!」

「あ、あはは……そうですね~」


 先生の熱弁は止まらない。

 わたしはなるべく当たり障りのない返答をして、その場をやり過ごした。




   ◆




「いやーまいった」


 帰り道、わたしは二人に話す。


「魔物好きのちょっと変わった先生だとは思っていたけれど、完全に変態だね」


「まあいいじゃない。喜んでくれていたみたいだし」

「そうだな。あれが愛らしいという感覚はよくわからないが、魔物に対する情熱は伝わったぞ」


「やれやれ。……まあとにかく、おばけ騒ぎもひと段落したことだし、ちょっとゆっくりできそうだね」


 そう言って深呼吸する。

 わたしはルミナスの夕暮れの空気を、こころゆくまで楽しんだ。


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