第二百三十七話 調査2
「ぎゃーっ!」
「いやーっ!」
わたしとセレーナは、一目散に逃げ出そうとする。
しかし、リーゼロッテが襟首をつかんで二人を引き留めた。
「まてまて。何か理由があるはずだ」
教室の中を覗くと、たしかに骨の標本が、カタカタと動いている。
「何かって……標本が勝手に動く理由なんて、おばけしかないじゃん!」
わたしはべそをかく。
「こんな……こんなことって……」
セレーナの声も震えている。
リーゼロッテは困ったように言った。
「私にもわからない。だが……」
次の瞬間、リーゼロッテは信じられない行動に出た。
教室の扉を開けると、ずかずかと中へ入っていったのだ。
「り、リーゼロッテ!」
わたしは呼び止めようとするが、彼女はそのまま歩いていく。
リーゼロッテは、教室の中へ進んでいき……こう言った。
「こんばんわ」
◆
「わあ! リーゼロッテがあたまおかしくなっちゃった! おばけのガイコツに挨拶してる!」
「なんてこと! おばけにとりつかれたのよ! もうだめだわ、ミオン」
わたしとセレーナは恐怖のあまり、抱き合ったまま、へなへなと座り込む。
「二人とも、こっちへ来てみろ」
リーゼロッテが言う。
「わ、私たちのことを呼んでるわ!」
「だめだぁ! わたしたちもとりつかれるんだぁ」
わたしとセレーナが涙目で震えていると、
「馬鹿なことを言ってないで、よく見るニャ」
とにゃあ介。
リーゼロッテが言う。
「ほら。先生だ」
彼女が指さす先を見ると、標本の後ろに、ガルバルド先生がしゃがんでいた。
「どうしました、みなさん?」
きょとん、とした顔のガルバルド先生。
「せ、先生!?」
「こんなところで何をしてるんですか!?」
すると、
「いやー、お騒がせしたならすみません」
先生は頭を掻きながら、言った。
「何度組み立ててみても、右手の骨が足りないんですよ。参ったなあ」
◆
「動くスケルトンソルジャーの犯人は、ガルバルド先生だったのだな」
帰り道、リーゼロッテは可笑しそうに言う。
「まったく、人騒がせなんだから!」
わたしはぷんすか腹を立てる。
「ミオンは怖がりすぎよ。おばけなんているわけないでしょ」
と言うセレーナにわたしは、
「セレーナだって、すっごい怖がってたくせにー」
と言い返す。
「そんなことないわ。すこし驚いただけよ」
「うそだ~。もうだめだーとか言ってたじゃん」
「そんなこと言ってないわ。ミオンでしょう言っていたのは」
「あっ、人のせいにしようとしてる! 言ってたもんね、『ミオン、もうだめ~』」
「言ってません」
「『ミオン、しんじゃう、しんじゃう~』」
そんなわたしたちのやり取りを見て、リーゼロッテとにゃあ介は呆れて言った。
「やれやれ」
◆
動く標本の謎は解けたけれど、本題は学校のどこかから聴こえる声の謎だ。
翌日は、一階の教室を中心に見て回ることにした。
リーゼロッテは、
「時間がかかるから手分けをして調べようか」
と言ったが、わたしとセレーナは断固として反対した。
「絶対ダメだよ、そんなの」
「私も反対だわ」
「なぜだ? その方が効率がいいのに」
不思議そうなリーゼロッテ。
「なぜって、そりゃあ……」
「そうよ。それは……」
「??? 全然わからない……」
「素直に、一人は怖いからだと言えばいいニャ~」
「ち、違わあ!」
「ち、違いましてよ?」
そんなことを言い合いながら、わたしたちは教室を覗き込んでいく。
誰もいない教室は、がらん、としていてなんだか寂しい。
「誰もいないし、何も聴こえないね」
「みんなが下校した後の学校は静かね……」
セレーナが言う。
たしかに校舎は静まり返って、人の気配どころかなんだか現実感さえないように感じられる。
「ああ。そうだな……」
リーゼロッテはうなずくと、
「一応、あそこも見ていこう」
そう言って、廊下の向こうを指さした。
◆
「ここかぁ……」
「別におかしなところはなさそうだけれど……」
「ここもハズレかな」
わたしたちがやってきたのは、トイレの前。
「こんなところに何かあるかなぁ」
わたしが首を傾げていると、
「まあ、入ってみればわかることだ」
そう言うと、リーゼロッテは男子トイレの方へ入ろうとする。
「ちょ、ちょっと待ってリーゼロッテ。そっちは男子用だよ!」
「そうだが?」
「そうだがじゃないよ! うら若き女子が入っちゃだめでしょ!」
「だが調査をしなければ」
「そういう問題じゃなくて、だめったらだめなの!」
「そうか……しょうがないな」
リーゼロッテは仕方なく引き下がった。
「はー、あぶないあぶない。もう、リーゼロッテってば、デリカシーがないんだから」
ほっとするわたし。セレーナもため息をつく。
「それじゃあ、とにかくこちらの中を調べてみよう」
リーゼロッテは女子トイレを指さして言った。




