第二百三十四話 おばけ?
「お、おばけ……?」
「お、おばけ……?」
わたしとセレーナは思わず訊き返す。
「知らないんですか? 有名な話なのに~」
「ああ、その話か」
リーゼロッテが言う。
「リーゼロッテ、知ってるの?」
「さすがリーゼロッテさん! ご存知なんですね~」
「学校にまつわる七不思議ってやつさ」
「ちょっとまって!」
わたしは手を前に出して、リーゼロッテの言葉を制しようとする。
「魔法学校にまで学校の七不思議があるなんて聞いてない!」
「よくある眉唾ものの噂話の類だ。トイレから出てくるメデューサの手、夜中にひとりでに動き出すスケルトンソルジャーの標本……」
「あ゛ーーあ゛ーー、聞こえなーーい!」
わたしは耳をふさいで喚く。
しばらく喚いた後、おそるおそる耳から手を離し、訊ねる。
「ただの噂だよね?」
「ただの噂じゃないです! 私たちも聴いたんです。こわかったです~」
それから、
「そうだぁ!」
ミムとマムは言う。
「ミオンさんたちなら解決できるかもしれません」
「おばけ、やっつけちゃってください~」
口をそろえて、
「よろしくお願いします~」
そう言って二人は帰って行った。
わたしとセレーナはリーゼロッテに訊ねる。
「あんなのただの噂よね?」
「どうかな」
リーゼロッテは言う。
(姿は見ていなくても、実際に『音』は聞こえるわけだから、何かはあるのかもしれニャい)
「まさか……」
「なんだ、ミオンとセレーナはおばけがこわいのか?」
「そ、そんなわけないじゃない」
「あはは、……冗談言っちゃいけないよ」
わたしとセレーナはひきつった顔で笑う。
「おばけなんて、魔法でドーンだよ」
「私だって、剣で一突きよ」
「そうか? ならいいけれど」
そのとき、教室の扉が開く。
「きゃっ!」
思わず小さく悲鳴を上げるセレーナに、
「ちょっと驚かせないでよセレーナ、先生が来ただけだよ」
とわたし。
「わ、わかってるわよ」
「もうセレーナってば怖がりなんだから……きゃーっ!」
今度はわたしが悲鳴を上げる。
「羽ペンを落としただけじゃないの。やめてよミオン」
(……耳が痛いニャ)
「あ、あはは。わかってるって……」
わたしはびくびくしながら、
「ところでセレーナ」
と言う。
「今日は夜、一緒に寝てあげてもいいよ?」
「そ、そうね。ミオンがそう言うなら寝てあげてもいいわ」
◆
何日か経った。
わたしたちは、リーゼロッテの寮にいる。
はじめはセレーナの部屋に泊まっていたのだが、
怖がり同士がいくら集まっても無駄、というか余計に怖くなるのが判明したからだ。
というわけで、ここ数日わたしたちはリーゼロッテの部屋にお邪魔している。
ミムとマムの尽力もあって(?)、噂はあっという間に広がっていった。
話に尾ひれがついて、本当に幽霊を見たという話まで出てきたのだ。
それは小さな女の子だとか、頭が三つある化け物だとか……。
「ねえ、おばけなんて、いないよね?」
「いるわけないわよ……」
セレーナは自信なさそうに言う。
「完全に否定はできないな」
リーゼロッテも、
「いたとしてもおかしくはない」
と言う。
「にゃ、にゃあ介~」
わたしはにゃあ介に助けを求める。しかし、
「おばけや幽霊に限らず、存在することを証明するのはたやすいが、存在しないことを証明するのは到底不可能ニャ」
「うぇーん」
「でも、ここまで噂が広まると、ちょっと気になるな」
「え?」
「こんなに大きな噂になったら、誰かが検証するはずだ。それでも見つからないとなると……」
「ほ、本物のおばけ?」
わたしは青くなる。
「ミムとマムの言う通り、私たちで正体を突き止めてみるのもいいかもしれない」
「えー……」
「……」
リーゼロッテの言葉に、いつになく消極的なわたしとセレーナ。
「ちょっと調査してみるか。どうだ? ふたりとも」
「……わたしはどっちでもいいよ。調査しなくてもいいし」
「……私もどちらでもいいわ。調査しなくてもいいし」
「よし、じゃあ明日から調査を始めよう」
「うん。調査しなくてもいいよ」
「ええ。調査しなくてもいいわ」




