第二百三十三話 声
「やったわね」
「うん!」
わたしたちはハイタッチする。
「ミオンの秘策が決まったな」
「そうだね。でも、もちろん二人がいなかったら、勝てなかった。ありがとう」
顔を合わせて三人で、ふふふと笑いあう。
そこへ顔を紅潮させたガルバルド先生が、ふらふらと進み出てくる。
「おどろきました……」
感動のあまり、先生の声はかすれている。
「……闘魔術! 初めて目にしたが、なんという迫力だ!」
先生は拳を握る。
「舞い上がった土くれが、本当にゴブリンガードそっくりに……いやまさにゴブリンガードそのものだった!」
身振り手振りを交えて、ゴブリンガードの様子を熱く語る。
「ぜひ使ってみたい!……わたしにも使えるでしょうか」
「もちろんです」
わたしは言う。
「先生ならきっとすぐですよ」
先生は微笑む。
「ありがとうございます」
それから、少し恥ずかしそうに付け加えた。
「わたしはその存在を知った幼いときから、ずっと闘魔術に憧れていまして……」
わたしはうなずく。
「わたしも、魔法や魔術が大好きなのでわかります」
「そうですか」
先生は愉快そうに笑う。
「この歳でこんなに興奮に胸躍るとは……まるで少年の頃に戻ったような気分です」
そして小さくコホン、と咳払いすると、
「みなさん、本当にありがとうございます」
そう言って、ガルバルド先生は改めて深く頭を下げた。
「いや、驚いたよ」
ジェイクが頭を掻く。
「まさか、僕たちが負けるとはね」
「とうまじゅつ……見たこともない魔法だった」
「実は……」
ガルバルド先生が説明する。
「というわけで、私が闘魔術の復活を頼んだのです」
「失われた魔法を復活させたのか……!」
ジェイクは感心して言う。
「なるほど確かに君らならSランクパーティでも後れを取るかもしれないな」
「えへへ、奇襲戦法ですけど」
わたしは言う。
するとジェイクは、
「いや、見事な戦術だったよ。でもね」
ちょっと悔しそうに、言う。
「次は油断しない。僕らだってやられっぱなしじゃないよ」
わたしは背筋を伸ばして、
「はい!」
と答える。ジェイクは笑う。
「さて、それじゃあ今日の授業はこれで終わり。みんな、解散!」
◆
「ミオンさん、聞きました~!」
「おっ、ミムにマム。ひさしぶりー!」
翌朝、わたしたちのいる教室に、ミムとマムが顔を見せに来た。
新学期になって、ミムマムとは別のクラスになってしまったため、二人と会うのはしばらくぶりだ。
この二人はいつも元気でいいよなあ……。
「お久しぶりです~」
「どしたの? 二人そろって」
と言っても、ミムとマムが二人そろってないのを見たことはないのだが。
「昨日の身体鍛錬の授業で、大活躍したそうですね~!」
もう聞きつけたとは、やっぱり二人は耳が早い。
「さすがミオンさん、イェルサの稲妻をボッコボコにして袋叩きの上に血祭りにあげるなんてすごいです~!」
「ちょっとちょっと、尾ひれがつきすぎてるんだけど! 奇襲がはまって、なんとか一本とれただけだよ」
「そうなんですか~、でもすごいですぅ~! Sランクパーティから一本とるなんて」
ミムとマムは手を叩いて褒めてくれる。そして、
「なんでも戦いの途中で、魔物が現れたってみんなが言ってたんですけど~」
「……それってやっぱり、ミオンさんの仕業なんですか?」
「えーっと、まあ……」
「やっぱり~!」
「じゃあじゃあ、アレもミオンさんたちの仕業なんですよね?」
「アレって何?」
「校内で聞こえる、変な声のことです~」
「変な声……なにそれ?」
「ミオンさんじゃないんですかぁ。……聞いたことないですか~? さいきん、学校内で変な声が聴こえるって噂」
「え? そんなの聞いたことない。変な声……ほんとなの?」
わたしが訊ねると、二人は同時にうなずいてこう答えた。
「噂だと、おばけが出るって話です~」




