第二百三十一話 再戦1
「よかったわね。旧極魔法について、新たな情報が得られて」
寮へと帰る道すがら、わたしは二人と話している。
「うん。でも肝心の素材が魔族領にあるんじゃ、すぐには取りに行けないよね」
あの場では行くしかないとは言ったものの、魔法学校の授業もあるし、さすがに魔族領へホイホイと行けるものではない。
「まあ、そこは焦らずにいきましょう」
旧極魔法ついては、まだ分からないことが多い。
精霊召喚のための魔法陣もそうだし、そもそもどんな魔法なのかもわかっていない。
「高い目標を達成するには、一歩一歩進むしかないという有名な実業家の言葉もあるニャ」
「そうだね」
三人でうなずき合う。
「ところでさあ、明日なんだけど……魔物学の後、身体鍛錬の授業だったよね?」
「ああ、そうだが?」
わたしの笑顔を見て、セレーナは何かを察したのか、
「……何か、考えがあるのね」
と言った。
「うん。あのね……」
わたしは二人に話した。
とっておきの秘策を。
◆
翌日、魔物学の「コボルドの生態と群れで襲われたときの対処法」の授業を終えた後、教室に残るガルバルド先生の元へ行き、わたしは訊ねた。
「先生、次の時間、空いてませんか?」
一応、先生の魔物学の時間割は確かめておいた。
先生の今日の授業は、これで終わりのはずだ。
「はい。空いていますが」
「では、少しだけ時間をいただけませんか? わたしたち、身体鍛錬の授業があるんですけど、見に来て欲しいんです」
「? かまいませんが……」
ちょっと不思議そうなガルバルド先生だが、
「よかった。それじゃあ、校庭で!」
それだけ言うとわたしは魔物学の教室を出る。
セレーナとリーゼロッテが、扉の前で待っている。
「これで準備よし、と」
「あとは、ミオンの秘策だな」
「上手くいくといいわね」
◆
身体鍛錬の授業のため、わたしたちは校庭に出ている。
わずかにそよ風が吹き、過ごしやすい気候だ。
「ちょっと緊張してきたかも」
(緊張をほぐすには、身体を動かすのが一番ニャ)
わたしはぴょんぴょん跳ねたり、手首を回したりして準備運動をする。
隣にいるセレーナとリーゼロッテも軽く体を動かしている。
「やあみんな、元気だね!」
ジェイクが校舎から出てくる。
いつも通りの金髪で、前髪がちょこんと立っている。
ジェイクの後に、イェルサの稲妻の他のメンバーが続く。
槍使いのルーベンダイク、ムチ使いのジュナ、パチンコ使いのメティオ。
メティオはわたしの姿を見るなりネコ耳をもふもふしにこようとするが、ジュナに止められている。
その後ろから、もう一人。銀縁眼鏡にオールバックのガルバルド先生が姿を現す。
「今日の授業には、魔物学のガルバルド先生が参観に来てるんだ」
ガルバルド先生が、軽く会釈をして言う。
「すこし見学させてください」
ガルバルド先生と目が合うと、わたしはぺこり、と頭を下げる。
「さてと」
ジェイクは腕を組んで片眉を上げ、
「今日は各武器の特徴のおさらいと、応用的な動き方の練習なんかをしようと思っていたんだけれど……」
ちょっと考えるそぶりを見せる。
「せっかくガルバルド先生が来ているんだから、もっと別のことをしたいね。何がいいかな……」
「はい!」
わたしはここぞ、とばかり手を挙げる。
「ん? ミオン君、どうしたの?」
わたしは間髪入れずに答えた。
「模擬戦、やりたいです」
イェルサの稲妻のジェイクが、ぽりぽりと頭を掻きながら、言う。
「ふむ。模擬戦か」
「どうしてもやりたいんです。おねがいします!」
ジェイクは他のメンバーと顔を見合わせ、うなずいた。
「わかった。今日は模擬戦をやることにしよう」
◆
「グンター組に3点! そこまで!」
グンターの模造槍が、マルタのこめかみに命中したところでジェイクがそう宣言する。
「いてて……くそっ」
「ほらほら、動かないで。エオル先生特製の傷薬よん」
ジュナが緑色の軟膏をマルタの側頭部に塗ってあげている。
「いいなあ……」
男子生徒たちが指を咥えてうらやましがる。
ジェイクがそれを横目に見ながら、頭をぽりぽりと掻く。
「さて、それじゃあ……」
ジェイクはわたしたち三人の方を見る。
「ミオン君、セレーナ君、リーゼロッテ君」
ジェイクはニッと笑って言う。
「僕たちが相手をしよう。それが望みだろう?」
「はい! お願いします!」
こちらから切り出さなくても、ジェイクはわたしたちの意を分かっていたようだ。
「よし。イェルサの稲妻とクレセント・ロペラの第二戦だ」
「じゃあ、いいかい?」
ジェイクがわたしたちに確認する。
校庭では、ジェイクとメティオ、ルーベンダイクのイェルサ組と、
わたしとセレーナ、リーゼロッテのクレセント・ロペラ組が向かい合っている。
審判は、前回と同じようにジュナが務める。
前回の模擬戦では、あとちょっとのところで勝利を逃したけれど、
その反省から、今回は秘策を用意している。
わたしはセレーナとリーゼロッテに向かってうなずく。
「……今度こそは、勝って見せよう!」
二人はうなずき返す。
「ええ」
「もちろんだ」
わたしは大きな声で言う。
「よろしくお願いします!」
ジュナがうなずいて、言う。
「それじゃあ始めるわよん」
――いよいよ二度目の模擬戦の幕が上がる。




