表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
231/603

第二百三十話 エオル先生の話

「大魔導士の求めた薬草について、私の知っていることはすべてお話しさせていただきましょう」


 そう言うと、エオル先生は空を仰いで太陽の位置を確認した。


「……まだ時間はありますね。すこし長くなるかもしれませんが、かいつまんで話しましょう」


 そしてエオル先生の話が始まった。


「大魔導士は、旧極魔法を求めて各地を旅して回ったと、伝承されています」


 わたしはエオル先生の話を一言も聞き漏らすまいと、耳をそばだてる。


「それは太古の昔に失われた魔法。現在では失われてしまった魔法や魔術はいくつかあります。旧極魔法とは、それらの中でも、特に強力で特別な力を持つ魔法を指します。その力は絶大で、あらゆるものを凌駕すると言われています」


 エオル先生の声には熱が入っていた。


「大魔導士は旧極魔法の力を手に入れるために、いくつかの魔力を秘めた素材を探し求めました」

「ヴァルリヤ石、ですね」


「そうです。ひとつは、ヴァルリヤ石。えんじ色の宝石で、今ではカライという村の特産となっています。その様子ですと、すでに……」

「はい、手に入れました」


 セレーナが言う。


「そうですか……本気なのですね」


 エオル先生は複雑そうな顔をする。

 それから先生はちょっと間をためて、


「必要な素材は他にもあります。それが私が著書に記したもの……青みがかった緑色の薬草」


 と言った。


「アルテミア高原でとれる、アプシントスと呼ばれる薬草です」




「アプシントス!?」


 リーゼロッテの顔が曇る。


「どしたの? 手に入らないの? そんなに希少な薬草なの?」


 わたしは訊ねる。


「アルテミア高原って、たしか……」


 セレーナが言う。

 リーゼロッテがこう答えた。


「そう、アルテミア高原は魔族領にある」




   ◆




「魔族領はとても危険なところです」


 エオル先生は言う。


 見張り小屋の前から見える日は、すでに傾き始めていた。

 エオル先生の横顔が赤く照らされている。

 その表情はどこか物憂げだ。

 まるで遠い昔のことを思い出しているみたいに。


「私の著書、『秘薬のための秘密の薬草、その用途と生息域』。あれが禁書となった理由も、そのあたりにあると思われます」


 エオル先生は続ける。


「アプシントスは魔族の領域でしか生育しません。極めて貴重なもので、入手は難しいでしょう」


 静かにこう言う。


「……これであきらめはつきましたか?」


 エオル先生の言葉に、わたしたちは黙り込む。


 しばらく沈黙が続いたあと、わたしは言った。


「行くしかないでしょ!」

「え?」


「その昔、大魔導士さんは手に入れたんでしょ?」

「まあ、そうだな」


「じゃあわたしだって手に入れる! 大魔導士になる夢を、こんなところであきらめるわけにはいかないもん」


 エオル先生は大きなため息を吐く。


「どうしてもと言うなら、ひとつだけ忠告があります」

「なんでしょう?」


「魔族に出会ったら、戦おうなどと思わないでください。魔族は強い。そしてその頂点である『魔王』はもっと……」

「戦うつもりなんてありません」


「それならばいいんですが……」


 エオル先生はまだ何か言いたげだったが、これ以上言っても無駄だと悟ったのか、口をつぐんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ