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第二十二話 学園都市

 真っ先に馬車を降りたのはセレーナだった。わたしもその後に続く。


 降りた場所は、荒野だった。草がまばらに生えていて、大きな岩がいくつか、転がっている。

 魔物はその岩場に隠れていたらしい。


 四体のゴブリンが馬車の前に立っていた。全員が手に短剣を持っている。

 三体は緑色、普通のゴブリン。

 そして一体は……


(ミオン、後ろのヤツは――)


「うん」


 赤いやつ。ゴブリンガードだ。


「確か、ラウダさんが言ってた。赤いのは、数倍の強さ……」


 わたしがつぶやいていると、隣でセレーナが剣を抜く。


「セレーナ、危ないよ」


 止めるまもなく、たんっ、と跳ぶようにしてセレーナが走り出す。


「あ……仕方ない、わたしもっ」


 わたしは短剣を抜きながら、左のゴブリンめがけて走った。


 セレーナの剣が右のゴブリンの胸を突き刺すと同時に、わたしの短剣が、左のゴブリンの喉を掻っ切る。

 よし、あとは二体。


 セレーナが体を回転させながら赤いやつに切りかかる。

 だが、ゴブリンガードは、セレーナの剣をしゃがんでよける。


「気をつけて!」


 セレーナにゴブリンガードが切りかかる。

 セレーナはそれを剣で受ける。しかし力はゴブリンの方が上だ。

 押されるセレーナ。


 わたしは三体目のゴブリンを脳天から叩き切って、ゴブリンガードに向かう。

 ゴブリンガードは、セレーナの体を剣ごと押し、後ろへとびすさる。 


「あなた、なかなかやるわね、ミオンさん」

「あなたこそ。セレーナ」


 ゴブリンガードは、涎を垂らし、剣を構える。


(ミオン、左右に分かれろ)


 にゃあ介が言う。


「――わかった」


 わたしは左へ動き、セレーナと距離をとる。セレーナも同様に、ゴブリンの右へと回りこむ。

 

 ゴブリンは、どちらから攻撃すればよいか、迷っている。それほどの知恵がないらしい。


 また馬がいなないた。


 それを合図に、わたしたちは、ゴブリンガードに向かって跳んだ。

 わたしの短剣が、一瞬早く、ゴブリンの喉をとらえる。


「グボッ」


 と、体制を崩した次の瞬間、セレーナの剣が、ゴブリンガードの首を飛ばした。




 馬車に戻ると、馭者がぽかんと口を開けていた。


「嬢ちゃんたち、一体何者なんだい……?」


 セレーナは、そんな馭者に、言った。


「名乗るほどの者じゃありませんわ。馬車を出してください」


 馬車の中に入ると、母親が子供の目を押さえている。残酷なシーンを見せないように、と言う配慮だろう。

 だが、子供は興奮して歓声を上げる。


「おねいちゃんたち、かっこいい! ものすごく、強ーい!」



   ◆



「学園都市ルミナス到着~」


 目を覚ますと、馬車はもう止まっていた。この揺れの中、眠れるなんて我ながらすごいと驚く。一体何時間、馬車に乗っていたんだろう……


「ごめーんセレーナ。わたし寝ちゃってた」

「なぜ、謝るんですの。わたくしには関係……」

「起こしてくれてよかったのに。暇だったでしょ」

「いや、よく寝ていたから……そ、そんなことより! 学園都市に着きましてよ」


「つ、着いた?」


 夢にまで見た魔法学校!


「ネコのおねいちゃん、涎垂らしてるぅ~」


 わたしは慌てて立ち上がり、軽く伸びをする振りをしながら涎を拭くと、子供の声を無視して馬車の外へ飛び出す。


 目に飛び込んできた景色に、しばし圧倒される。

 馬車が止まった高台から見下ろすと、学園都市が一望できる。

 山々に囲まれた一帯に、大規模な街が形成されていた。街は大きく三色に分かれていて、赤、緑、オレンジの屋根の家々が、森の周りにぐるりと建ち並んでいる。


 建物に囲まれて、森と湖がある。そしてその中心にそびえる、青い屋根の巨大な建物。いくつかの尖塔を持ち、多くの棟、それから敷地内に高い塔も建っている。あれが魔法学校……。

 それらすべてが、夕日に照らされて赤く染まり、まるで絵画みたい。


「すっご……」

(壮観だニャ)


 うー、写真撮りたい写真撮りたい!

 だが、スマホどころか、この世界にはカメラもないらしい。

 わたしはしばしその場に佇む。


(何してるニャ?)

「自分の目に景色を焼き付けてるの」

(……よくわからニャいがワガハイはお腹が減ったニャ。さっさと用事を済まして夕飯にするニャ)


「よし! これくらいでいいでしょう!」


 景色をもっと堪能したいのもやまやまだが、これ以上我慢できない。

 一刻も早く、魔法学校へ向かいたかった。


 すると、私の後ろで、


「それでは、わたくしはここで」


 とセレーナが言った。


「学校へは行かないの?」

「もう手続きは済ましてありますの」

「そうなんだ。じゃあ、またね、セレーナ!」

「……ええ、あの……ミオンさん」

「なに?」


 なにか言いたそうなセレーナに訊ねる。するとセレーナは言った。


「あなたをライバルと認めて差し上げましょう」


 一瞬びっくりする。そしてわたしはこう答えた。


「うん! わたしたち、これで友達だね!」

「と、ともだ……」


 わたしが手を差し出すと、セレーナもいきおいでつい、といった感じで握り返してくる。


「うれしいなー。こっちの大陸に来て初めての友達だー」

「…………」


 自分の手を見つめたまま突っ立っているセレーナと別れると、わたしは矢も盾もたまらず、山あいの学園都市に向かって駆けだしたのだった。




 学園都市は、清潔で、手入れの行き届いた感じのする街だった。

 高台からは、屋根の色が赤・緑・オレンジの三色に分けられているように見えたが、今、わたしがいるのは、オレンジ地区だ。

 見た感じ、住宅が多いようだ。


「ひょっとして、オレンジは住宅街なのかな?」

(統一感と機能性を兼ね備えて悪くニャい)

「うん、わかりやすくていいね」


 にゃあ介に同意する。


(おそらく赤か緑が商業地区ニャのだろう。早いとこ手続きを済ませて食事処を……)


「わかったわかった。とにかく、学校へ行ってみよう」


 わたしは中心部にある学校目指して街なかを歩いた。


 街をゆく人の中に、マントを被った魔導士風の人や、宝石のはめ込まれた杖をついている人を見かける。


「あれ絶対、魔法の杖だ……」

(何で、絶対とわかるのだ?)

「絶対そうなの!」


 そんな風に勝手に決めつけて、にやにやしながら中心部へ向かう。


「あとどれくらいだろう」

(もう近いはずニャ)


 すると、目の前に長い上り坂が見えてきた。


「あの先のような気がする!」


 ワクワクとドキドキがとまらない。

 魔法学校、魔法学校。わたし今、魔法学校のすぐ近くにいる――。


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