第二百二十七話 ガルバルド
翌日の授業後、わたしたちはガルバルド先生をつかまえて、報告した。
「先生、成功しました」
その一言で先生はすべてを察したようだった。
放課後の魔物学の教室で、わたしたちはしばらく会話を交わした。
ガルバルド先生は、この魔法学校の魔物学の教師になるまでは、冒険者だったらしい。
現役のころは、数々の洞窟や迷宮を渡り歩き、たくさんの魔物と対峙してきたという。
「魔法学校で魔物についての授業を学べるとは、思っていませんでしたわ」
セレーナの言葉に、
「この学校で魔物学というものを教えることになったのは……」
先生は銀縁眼鏡を直しながら答える。
「ガーナデューフ校長の依頼でしてね」
「校長先生の?」
「校長は、最近の魔物の動向に、危機感を抱いているようなのです」
そう話す。
「まあ、そんなこんなで、今は、魔物学の教師をやっているわけですが……」
先生は、ちょっと恥ずかしそうに頭をかいた。
「私は教師としてはまだまだ新米なのです。なにしろ私自身が生徒みたいなものでしてね……。それで生徒たちから学ぶことばかりです」
わたしたちを見つめ、
「闘魔術の謎を――私が何十年かけても解けなかった……いや、先人たちが何百年かけても解けなかった謎を、きみたちはたった数日で……」
先生は、天を仰ぐ。
そして室内なのに雨でも降ってきたみたいに両手を伸ばして掌を上へ向け、言う。
「きみたちという生徒に出会えて、本当によかった。まったく、教師と生徒という立場が逆転してしまいましたね」
それから、こう付け加える。
「闘魔術という新たな魔法を携えて、また冒険がしたくなってきてしまいましたよ」
◆
「ガルバルド先生、喜んでくれてよかったね」
わたしたちは並んで歩く。
校舎から出ると、生徒たちはもうほとんど下校していて、校庭にひとけはない。
わたしたちは、製薬機作りのため、ガーリンさんの見張り小屋へ向かった。
「ああ。長年の夢だったと言っていたからな、闘魔術の復活は」
「ええ。ただ、気になることを言っていたわ」
そうセレーナは言う。
「うん。魔物の動向……あれってどういう意味なんだろう?」
「わからない。だけど、好ましい事態であるとは思えないわね」
三人で守衛の見張り小屋へ行くと、いつものようにガーリンさんが待っていた。
「お前さんたち、喜べ。完成は近いぞ」
ガーリンさんはそう言うと、わたしたちに製薬機の図面を見せた。
「あとはここと、ここと、ここんとこと……」
それから人懐こい笑みをにっと見せる。
「そうしたら、組み上げるだけだ」
「ありがとうございます!」
「礼には及ばんよ。ワシも楽しませてもらったからなあ」
ガーリンさんの言葉を聞いて、わたしたちは顔を見合わせた。
「はっはっはっ。物づくりの楽しさ、お前さんたちにもわかるだろう? 終わってしまうのが、ちと惜しいくらいでな。だが、まあ仕方ないわな」
ガーリンさんはハンマーをひょいと持ち上げると、言った。
「さあさあ、じゃあ仕上げにかかろう」




