第二百二十六話 闘魔術3
ざあっと音がすると、沼地の周りの砂や泥が宙に舞い上がった。
「なんなの!?」
舞い上がった土砂が、つむじ風に巻き込まれるように一か所に集まっていく。
湿った音を立てながら泥の山が組みあがっていくさまは、まるで手品か何かを見ているようだった。
「成功だ……見ろ」
リーゼロッテがつぶやく。
石や泥が徐々に見覚えのある姿を形作っていく。
筋ばった手足に、曲がった背、ぎょろりと飛び出した目、尖った耳……。
「ゴブリンガードだ」
◆
泥人形は、たしかにゴブリンガードの恰好をしていた。
「ゴブリンガードの魂が、自らの姿を形作っているんだ」
ただ、その表情はどこか虚ろで、生気を感じない。
「戦いのこころの具現化……やはり自我はないのだろう」
ゴブリンガードの向こう側では、リザードがこちらを訝しげに見つめている。
「さあ行っけー、ゴブリンガード!」
わたしが叫ぶと、ゴブリンガードが動き出した。
傀儡のゴブリンガードは、手を振り回しながらリザードに迫る。
リザードは口を大きく開けて牙を見せ、迎え撃つ構えだ。
ガキン! という音と共に、両者が激しくぶつかり合う。
しかし、その力は互角だったようで、両者は一旦距離を取った。
「どうかな? ちょっとキツい?」
「……いえ、勝てるはずよ。リザードはEランク、ゴブリンガードはDランクの魔物だもの」
セレーナが言うと同時に、ゴブリンガードの動きが変わった。
素早くリザードの背後に回り込み、両手で顔面を抱え込む。
リザードも応戦しようとするが、背中のゴブリンガードに牙が届かず、徐々に押され始めた。
背後を組みつかれたリザードは振りほどこうと、うねるようにもがき回る。
「グヤァァァァ!」
ゴブリンガードの爪がリザードの両目に食い込む。
そのまま、ゴブリンガードはリザードの首筋に喰らいついた。
緑色の汁が噴きだし――
やがて、リザードは崩れ落ちるように倒れた。
ゴブリンガードの勝利だ。
「やったぁ!」
わたしたちが喜び合っている間に、ゴブリンガードの崩壊が始まる。
海岸に作られた砂の城が、波に溶けるみたいに、ゴブリンガードの身体は徐々に小さくなっていく。
最終的には元の石と泥に戻ってしまった。
そして、あたりは今の戦闘が嘘のように静まり返る。
わたしは驚嘆のため息を漏らした。
「――――これが闘魔術!」




