第二百二十四話 闘魔術1
「いいか、まず闘魔術とは新しい魔法ではない。既存の魔法の組み合わせなんだ」
授業が終わり、教室を後にして廊下を歩いている。
興奮したままのリーゼロッテは、指を振り振り早足で歩く。
足を動かしながら、わたしたちはリーゼロッテの話に耳を傾けている。
「組み合わせ?」
「うむ。私が思うに、闘魔術は『保存』と『出力』からなる」
「保存と出力……」
リーゼロッテは、「契約」と「召喚」という言葉をあえて使わなかった。
「『保存』について考えてみよう。保存に使う魔法は、既知の魔法だ」
「既知?」
「われわれは既に知っている。魔物の思念を探ることができる魔法を」
「思念を……もしかして、ビューイング!?」
わたしは驚きながらそう口にする。
「魔物と戦って倒す。そのとき、魔物の魂はすぐには消えない」
「タマシイ?」
リーゼロッテは言う。
「その場に、魔物の思念が残る。ミオンがゴブリンガードにビューイングを使ったとき感じ取ったような、強烈な生への執着。闘争の本能だ。これは仮に、魔物の『戦いのこころ』と呼ぼう」
「魔物を倒してから、その『戦いのこころ』を読み取るの?」
「ああ。倒した後、ビューイングを使って、『戦いのこころ』を記憶する。それはいわば術者の血に『保存』される」
リーゼロッテは続ける。
「次は『出力』だ。そうして保存された『戦いのこころ』を、呼び出す」
「呼び出すって、どうやって……」
「保存された魂を使って、戦闘を行う。……心当たりはないか?」
そこではっと思いつく。
わたしとセレーナは同時に叫ぶ。
「ブラストスピリット!!」
「そうだ。闘魔術とは……リモートゴーレムの一種だ」
わたしたちは一瞬絶句する。
それから同時に口を開く。
「天才的だわ!」
「さっすがリーゼロッテ!」
考えもつかなかったリーゼロッテのアイデアに、わたしは手を叩いて飛び跳ねる。
「戦いの思念だけを記録したものだから、おそらく自我はなく――」
どさり、と音がしてわたしたちは振り返る。
ガルバルド先生だ。手に持っていた本を落としたらしい。
「あ、先生!」
「そんな……」
先生は、幽霊でも見たみたいな顔で、呆然と突っ立っている。
「先生?」
「大胆な仮説だ……非常に大胆な仮説だ」
「せんせーい」
わたしは先生の目の前で手を振ってみる。
「だが……たしかに、そう考えれば……腑に落ちることも多い」
ぶつぶつとつぶやく先生。
「魔法陣が残っていないのも……それなら納得できる……」
「先生ってば」
ようやく我に返った先生は、わたしたちに向かって言った。
「――ぜひ実証を。その仮説を証明して欲しい」
◆
わたしたちは校舎を出て、坂を歩いていた。
「まだ確定ではない。実証が必要だ」
リーゼロッテはもう落ち着いている。
「もちろんそうだよ。そうだけど、先生も腑に落ちることが多いって言ってたし、きっと正解だよ! すごいなあ、リーゼロッテ」
リーゼロッテは首を振り、
「相談しながらだからこそ、思いつくことができた。何より……」
リーゼロッテはわたしを見る。
「魂を二つ持つ、ミオンという存在を知っていたからな。それがなかったら思いつかなかったかもしれない」
「えへ。三人よれば文殊の知恵ってね」
わたしがホクホク顔でそう言うと、
(三人と一匹ニャ)
にゃあ介が不服そうに言った。




