第二百二十話 ハロルドさんへの贈り物
「うーむ」
学校帰り、並木の坂道を下るリーゼロッテは、うつむいて地面を見ながら歩いている。
まだ闘魔術のことを考えているらしい。
「リーゼロッテ。ちょっとは頭を休めなよ」
「そうよリーゼロッテ。あなた一日中そんな調子だったじゃない」
「ああ……そうだな」
そう言いながらも、リーゼロッテは考えるのをやめない。
上の空で歩いていき……、
「わあ、あぶない!」
そのまま木に激突しそうになる。
わたしは慌ててリーゼロッテに走り寄り、肩を掴んでくるり、と方向を変える。
「うーむ」
そのままトコトコ歩いていくリーゼロッテ。
「もう! これで今日六回目だよ……」
はらはらとリーゼロッテの行く手を見守る。
「うーむ、闘魔術とはいったい何なのか……」
「ねえ、リーゼロッテ」
セレーナが言う。
「ちょっと頭を切り替えたほうがいいわ」
「そうだよ、リーゼロッテ。こういうときは、一度忘れて、何か全く別のことを考えてみたほうがいいかもよ」
「別のこと?」
「そうそう、リフレッシュってやつ」
わたしはちょっと思案して、こう提案する。
「ハロルドさんへのお礼、どうするか考えてよ」
「ふむ?」
「何かいいアイデアある?」
リーゼロッテは顎に手を当てると、しばらく考え込んでから言った。
「こういうのはどうかな?」
◆
「こ、これを俺に?」
わたしたちが今いるのは、ハロルドさんの武器屋。
ハロルドさんは、リーゼロッテから受け取ったプレゼントを手に持ち、固まっている。
「リーゼロッテが作ったんです」
「ああ。つるはしの礼と、ハンマーの礼を兼ねている」
「俺に、つけろというのか? こいつを」
「かわいいでしょ?」
わたしは微笑む。
ハロルドさんは手に持ったネコの肉球型の眼帯を、凝視したまま動かない。
この眼帯は、三人がすこしずつ持ち寄った布を使って、リーゼロッテが得意の裁縫で作ったものだ。
細かいところまで丁寧に作られていて、白地にピンクの丸っこい肉球がなんとも愛らしい。
「きっと似合うと思いますわ」
ハロルドさんはセレーナの言葉に、ぎくりとこちらへ視線を移す。
じーっと見つめるわたしたち三人を見て、
「うっ」
とうめく。
きっと、早くつけて欲しいという期待の気持ちが、わたしたちの顔には出ているだろう。
ハロルドさんの額から、冷や汗がたらり、と落ちる。
次の瞬間、ハロルドさんは後ろを振り向いて下を向き、ゴソゴソと身動きする。
ハロルドさんが次にこちらを振り返ると、右目にあった黒い眼帯が、ネコの肉球に代わっていた。
「似合う! すごく似合ってるよ、ハロルドさん」
わたしは手を叩く。
「ええ、とっても良くお似合いですわ」
セレーナも同意する。
「そ、そうか……?」
「ああ。似合っている」
リーゼロッテが言う。
「かわいいと思う」
「かわ……」
ハロルドさんは絶句する。
(ふむ。たしかにネコの肉球は神聖で美しいが、あの強面とは少々ミスマッチではニャいか?)
頭の中でにゃあ介が言う。
「いいじゃない。こっちの方がゴツイ見た目がマイルドになって、親近感がわくよ」
それを聞いたハロルドさんは、何故かがっくりと肩を落とした。




