第二百十七話 だって
「ガーリンさん、製薬機作るのも手伝ってくれるの?」
「もちろんだとも。言ったろう、大工仕事はお手の物だ」
「やった! ガーリンさんがいれば、きっとあっという間だよ」
わたしは手をたたく。
セレーナ、リーゼロッテも頭を下げる。
「ありがとうございます、ガーリンさん」
ガーリンさんは、
「がはは」
と豪快に笑う。
「ただし、ワシには学校の門番という大事な仕事がある。準備は、おまえさんたちにやってもらわねばならん」
「うん」
「わかりました」
「任せてくれ」
「わかっとると思うが、必要なのは木材。それから……」
ガーリンさんは髭を片手で撫でながら言う。
「肝心かなめの二枚の石。この製薬機の根幹であり、リーゼロッテの大発明だ」
リーゼロッテは頭を掻きながら、
「図書館で読んだ内容から着想を得ただけだ」
と謙遜する。
「いやいや大したもんだ。……これは回転しながら薬草をつぶす。すごい発想だ」
ガーリンさんは机の上の設計図を確認して、言う。
「けっこう大きな石が要るぞ」
「また岩だあ」
わたしはおどけてみせる。
「ふふ。岩堀りばかりしていたものね」
「えへ。もう慣れたから、任せといて!」
わたしは胸をどん、とたたく。
「よし、それじゃあ材料が集まり次第、どんどん作ってやろう」
ガーリンさんはまた新しいハンマーをうれしそうに振り上げる。
「ところで、この機械、どこに置く気なんだ?」
「あ、ガーリンさんには話してなかったっけ」
わたしたちは顔を見合わせる。
「これ、実際に使うのはわたしたちじゃないんだ」
「エオル先生のために作るんです」
「ほう?」
「話せば長くなるんだけど……」
わたしは、ことのいきさつをかいつまんで説明する。
「ふうむ」
ガーリンさんは腕を組んで、
「旧極魔法か……」
ちょっとむずかしい顔になり、言う。
「危険じゃないのか?」
「うーん……」
わたしは正直に言う。
「もしかしたら、危険かも」
ガーリンさんに嘘はつけない。
「でもね。でも、わたし、どうしても旧極魔法をマスターしたいの」
「……なぜだ?」
「だって」
心配そうな顔のガーリンさんに、わたしはやはり嘘はつかない。
「だって、大魔導士になるのがわたしの夢だから」
◆
「よかったわね、ガーリンさんも納得してくれて」
わたしたちは魔法学校を後にして、夕暮れの坂道を下っていた。
「うん。『おまえさんの夢なら、ワシも応援する』なんて、ガーリンさん泣かせてくれるんだから」
「よい人だな」
「守衛がガーリンさんで本当によかったわ」
歩きながら、わたしはうれしくなって言う。
「旧極魔法……また一歩近づいた!」
「ミオンは気が早いニャ。先を見すぎてはいけない、運命の糸は一度に一本しかつかめないのだ。ウィンストン・チャーチル」
にゃあ介が頭の上でぶつぶつと言うので、
「ちょっと~水差さないでよ」
と口をとがらせる。
「運命の糸は……ふむふむ」
リーゼロッテが羊皮紙を取り出し、メモをとる。
リーゼロッテは最近、にゃあ介の名言集を書き留めることに決めたらしい。
「そういえば、召喚魔法……闘魔術のこともあったのだったな」
とリーゼロッテ。
「一度、ガルバルド先生に話を訊かなくては」
セレーナも同意してこう答えた。
「そうね。もうすこし詳しい情報が必要だわ」




