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第二百十五話 ガルバルド先生の頼み

「あーん、ぐやじいよー」


 ぐずりながら学校への道を歩くわたしの額には、でっかい絆創膏がぺたりと貼られている(膏薬を塗った布で、リーゼロッテに作ってもらったものだ)。


「どうして勝てなかったんだろう」

「まあ、仕方ないわね」


 そう言うセレーナだって、あっけらかんとしているようで、実はすごく悔しがっているに違いなかった。

 よく見ないとわからないが、口元がいつもより強く引き結ばれている。


「セレーナもミオンも、個人の能力では劣っていなかった」


 リーゼロッテも淡々と言っているように見えて、その目の奥には悔しさがにじんでいる。


「私の策が浅はかだったのだ」

「そんなことないよ! リーゼロッテがいなかったらどうしたらいいかわかんなかったし、きっと百万点くらいとられてたよ」

「そうよ。私たちに足りないものがあるとしたら、経験よ」


 おでこの絆創膏をさすりながら、


「次は勝つよ」


 わたしが言うと、二人は間髪入れずに答えた。


「もちろんよ」

「もちろんだ」




   ◆




 魔物学の教室では、ガルバルド先生が授業を行っている。

 教室の前には相変わらずグロテスクな魔物の姿が描かれた羊皮紙が貼られていて、ガルバルド先生はその前を行ったり来たりしている。


「基本的に、魔物は統率がとれていない。しかしときには徒党を組んで襲い掛かってくることもある」


 先生は、後ろ手に手を組んで歩きながら話す。


「コボルドの集団に襲われ、破壊された村もあると聞く」


 いったん足を止め、うつむく。


「なぜそのような動きを見せるのか――その生態はいまだ謎が多く、解明されていないことも多い。ゴブリン、コボルド、オーク、ドラゴン……魔物とはいったい何なのか?」


 ふーっ、と深いため息を吐き、言う。


「魔物の存在は、われわれ人間にとって脅威でしかない!」


 先生は顔を上げ、


「……と、思われがちであるが、そうでないこともある」


 それからしばし沈黙ののち、先生は言った。


「闘魔術」


 え? 先生、何て? 何のこと?


 ガルバルド先生は静かに続ける。


「かつて闘魔術という魔法が存在した」


 とうまじゅつ……?


「簡単に言えば、魔物と契約してその力を借りる魔法だ」


「えっ!」


 思わず声を上げ、わたしは自分で口を押える。


「かつて存在したこの魔法は、しかし時魔法と同じように、あるときを境にして失われてしまった」


 わたしは興奮気味に、隣のリーゼロッテに小声で訊ねる。


「リーゼロッテ、本当にそんな魔法があったの?」

「――書物によると、数百年の昔、闘魔術と呼ばれる魔法が存在した。またの名を召喚術とも言い、当時の高位の魔法使いによって戦闘に用いられたこともあるという」


「うっそ、聞いてない」


 召喚術!? 興味深ーい!




   ◆




「召喚術……闘魔術かぁ……」


「またミオンは上の空みたいね」

「ミオンは、魔法のこととなるとこうだからな」


 食堂で昼食をとりながら、わたしがぶつぶつ言っていると、、


「君たち、ここ空いているかな?」


 声をかけてきたのは、ガルバルド先生だ。


「え? あ、はい」


 突然、新しい先生に話しかけられたことにちょっと驚く。

 わざわざわたしたちの隣に座るなんて、何か用があるのだろうか?

 授業中に叫んじゃったから? 授業態度が悪いとか注意されるのかな……。


 先生は腰を下ろすと、


「君たちの食べている、それは何かな?」


「あ、これ、ネコまんまです」

「ほう。見たことも聞いたこともない料理だが、うまそうだね」


 そんなことを訊きにきたのかな?

 

(この男もネコまんまの魅力に、まんまと引き寄せられたかニャ)


 にゃあ介のオヤジギャグを無視して食事を続ける。



「……ユナユナ先生から話を聞いたのだが」

「はい?」


 こほん、と咳払いをして、先生はこう訊ねる。


「時の魔法を復活させたそうだね」


 思ってもみなかった台詞に、わたしたちは顔を見合わせる。


「素晴らしいことだ」


 先生に褒められ、わたしは頭を掻く。


「そ、それほどでも……てへへ」


 ガルバルド先生は真剣な顔になり、言った。


「……折り入って頼みがある」


 セレーナとリーゼロッテとわたしは顔を見合わせる。


「なんでしょう?」


 ガルバルド先生は言った。


「闘魔術を復活させてはもらえないだろうか」

「え……」


「もし闘魔術を復活させることができた暁には、礼はいくらでもする」


 先生は頭を下げる。


「頼む。生徒の君たちにこんな頼みをするのは教師失格かもしれないが……」


「頭を上げてください、先生」


 わたしは言った。


「礼なんていりません。任せてください」


「それでは?」


 わたしはニッと笑って言う。


「そんなすごい魔法があるなら、黙って放っておくわけにはいきません」




   ◆




「どう思う? ミオン」


 いつもの岩山にわたしたちは来ていた。

 セレーナが、つるはしをふるいながら話しかけてくる。


「さっきの先生の話。闘魔術、本当に挑戦するの?」


 わたしは即答する。


「もちろん、やりますとも!」

「そう言うと思ったわ。……ミルはどう思う?」


「何百年も失われていた、ということは、その間、誰も復活させることができなかった、ということニャ」


 にゃあ介は、飛んでくる石の破片をちょこまか避けながら、言う。


「復活にはてこずるかもニャ。……しかしそれだけ有用な魔法なのかもしれニャい」

「ええ。かなり難しいと思うけれど」


「うん。それでも」


 カツカツと岩を掘りながら、わたしの決心は揺るがない。


「復活させたい、闘魔術」


 わたしは興奮して手に力が入る。


「だって、召喚魔法なんてゲームマニア垂涎の……あーっ!」

「ど、どうしたの、ミオン」


 わたしは崩れた岩を拾い上げ、叫んだ。


「あった、あったよ、すっごい大きな瑠璃鉄鉱!」


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