第二百十三話 模擬戦2
「さあ、武器を取って」
ジェイクに言われ、わたしとセレーナは模造剣を、リーゼロッテは模造弓と矢を手に取る。
リーゼロッテの模造矢には、本物の矢じりの代わりに布が丸く巻かれている。
「それでいいかな?」
ジェイクは模造剣、ルーベンダイクは模造槍、そしてメティオはもちろん、パチンコだ。
「はい。大丈夫です」
いよいよだ。だんだん緊張感が高まってくる。
「あの……」
「どうしたんだい?」
わたしには戦闘前に確認しておきたいことがあった。
「魔法、使っても?」
ジェイクは一瞬キョトン、としてから、
「ははは」
と笑う。
「ここをどこだと思ってるんだい? 魔法学校だよ」
「じゃあ……いいんですね?」
「ただし、他のみんなや校舎に被害を与えないでくれよ。君の魔力はよく知っている」
「わかりました」
「よし、それじゃそろそろ始めようか。……ジュナ」
「オッケー。用意はいいわね?」
ジュナが確認する。
ごくり、と唾を飲んで、わたしはうなずく。
一呼吸、間をおいて、ジュナが宣言した。
「では、始め!」
◆
開始と同時に、イェルサ組は一旦後ろにさがる。
三人とも武器を構えて、じっとこちらを見つめている。
「仕掛けてこない……?」
「こちらの出方を窺っているようだな。速攻ではなく、手堅く攻める気なのか?」
リーゼロッテが言う。
「つまり?」
(万が一にも、この試合をとりこぼさないつもりだニャ)
にゃあ介の言葉に、わたしは冷や汗が出そうになる。
「つまり、本気ってことじゃん!」
「そうね」
左へ目をやる。セレーナが剣を構えている。
わたしは、その口角がすこしだけ上がっているのに気づいた。
セレーナ、うれしそう……。
「Sランクパーティと本気で戦えるなんて」
セレーナは相手から視線を外さずに、
「滅多にできない体験だわ」
そう言うと、髪をなびかせて走り始めた。
「あっ、セレーナ」
セレーナは距離を一気に詰める。
「ハッ!」
振り下ろした模造剣がジェイクの剣とぶつかり、鈍い音を立てる。
互いにぐぐっ、と力を入れ、剣に体重を乗せたかと思うと――
ぱっと離れる。
セレーナとジェイクは、にらみ合う。
わたしもセレーナの後に続いて走り出す。
ルーベンダイクの槍がわたしの行く手をふさぐ。
「我が槍の速さについてこられるかな?」
ルーベンダイクの槍と、剣の打ち合いになる。
「なかなかでござるな」
槍はリーチが長く、なかなか剣の届く間合いに入れない。
ルーベンダイクが横に払った槍をしゃがんでかわし、踏み込もうとする――
「わっ」
目の前を何かが通り抜け、思わず叫ぶ。
メティオに目をやるとパチンコを構えてこちらを狙っている。
「やば」
メティオの次の攻撃を警戒するが、二の弾は放たれない。
振り返るとリーゼロッテが弓でメティオを牽制している。
「ナイス! リーゼロッテ」
わたしはまたルーベンダイクに向かう。
一方ジェイクとセレーナの間でも、激しいつばぜり合いが続いている。
「ヤッ! トォ!」
くるくると身体を回転させながら、セレーナが次々と剣戟を繰り出す。
「ほっ、とっ」
降り注ぐセレーナの剣を、ジェイクは見事にさばいていく。
「いい剣だ」
ジェイクは剣を交えながら話す。
「身のこなし、間合い、太刀筋もいい。俊敏さに力強さもある。けれど――」
「けれど?」
ジェイクはセレーナの剣を受け、ニッと笑う。
「勇み足だな」
「?」
瞬間、リーゼロッテが叫ぶ。
「セレーナ、ひけ!」
わたしと対峙していたルーベンダイクが踵を返し、セレーナに向かう。
メティオの狙いも、いつの間にかリーゼロッテからセレーナに移っている。
とっさにジェイクから離れるセレーナ。
セレーナは身体をくねらせ、死角からの攻撃を避けようとする。
「くっ!」
斜め後ろから繰り出されたルーベンダイクの槍が、セレーナの胴をかすめる。
「イェルサ組に一点!」
ジュナの声が響く。
ジェイクは、剣を構え直してじりじりとさがるセレーナに向かって、こう言った。
「三対三だってことを忘れちゃ困る」
◆
「ごめんなさい。敵陣へ深く踏み込みすぎたみたい」
わたしたちの元へ戻ったセレーナが謝る。
「いや、私が忠告しなければならなかったんだ」
リーゼロッテは言う。
「孤立し、浮いた敵を狙う……数的有利をつくるのが集団戦のセオリーだ」
「そうなの?」
「以前読んだ戦術書の受け売りだがな」
(うむ。彼女の言う通りニャ)
にゃあ介の声。
「へえ、さすがリーゼロッテ」
「ともかく、一点の失点ですんでよかった」
とリーゼロッテ。すまなそうな顔のセレーナ。
「大丈夫!」
わたしは言う。遅ればせながら、そろそろわたしもエンジンがかかってきた。
「これから取り返そう」




