表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
214/604

第二百十三話 模擬戦2

「さあ、武器を取って」


 ジェイクに言われ、わたしとセレーナは模造剣を、リーゼロッテは模造弓と矢を手に取る。

 リーゼロッテの模造矢には、本物の矢じりの代わりに布が丸く巻かれている。


「それでいいかな?」


 ジェイクは模造剣、ルーベンダイクは模造槍、そしてメティオはもちろん、パチンコだ。


「はい。大丈夫です」


 いよいよだ。だんだん緊張感が高まってくる。


「あの……」

「どうしたんだい?」


 わたしには戦闘前に確認しておきたいことがあった。


「魔法、使っても?」


 ジェイクは一瞬キョトン、としてから、


「ははは」


 と笑う。


「ここをどこだと思ってるんだい? 魔法学校だよ」


「じゃあ……いいんですね?」

「ただし、他のみんなや校舎に被害を与えないでくれよ。君の魔力はよく知っている」


「わかりました」

「よし、それじゃそろそろ始めようか。……ジュナ」


「オッケー。用意はいいわね?」


 ジュナが確認する。

 ごくり、と唾を飲んで、わたしはうなずく。


 一呼吸、間をおいて、ジュナが宣言した。


「では、始め!」




   ◆




 開始と同時に、イェルサ組は一旦後ろにさがる。

 三人とも武器を構えて、じっとこちらを見つめている。


「仕掛けてこない……?」

「こちらの出方を窺っているようだな。速攻ではなく、手堅く攻める気なのか?」


 リーゼロッテが言う。


「つまり?」

(万が一にも、この試合をとりこぼさないつもりだニャ)


 にゃあ介の言葉に、わたしは冷や汗が出そうになる。


「つまり、本気ってことじゃん!」


「そうね」


 左へ目をやる。セレーナが剣を構えている。

 わたしは、その口角がすこしだけ上がっているのに気づいた。


 セレーナ、うれしそう……。


「Sランクパーティと本気で戦えるなんて」


 セレーナは相手から視線を外さずに、


「滅多にできない体験だわ」


 そう言うと、髪をなびかせて走り始めた。


「あっ、セレーナ」


 セレーナは距離を一気に詰める。


「ハッ!」


 振り下ろした模造剣がジェイクの剣とぶつかり、鈍い音を立てる。

 互いにぐぐっ、と力を入れ、剣に体重を乗せたかと思うと――


 ぱっと離れる。


 セレーナとジェイクは、にらみ合う。


 わたしもセレーナの後に続いて走り出す。

 ルーベンダイクの槍がわたしの行く手をふさぐ。


「我が槍の速さについてこられるかな?」


 ルーベンダイクの槍と、剣の打ち合いになる。


「なかなかでござるな」


 槍はリーチが長く、なかなか剣の届く間合いに入れない。

 ルーベンダイクが横に払った槍をしゃがんでかわし、踏み込もうとする――


「わっ」


 目の前を何かが通り抜け、思わず叫ぶ。


 メティオに目をやるとパチンコを構えてこちらを狙っている。


「やば」


 メティオの次の攻撃を警戒するが、二の弾は放たれない。

 振り返るとリーゼロッテが弓でメティオを牽制している。


「ナイス! リーゼロッテ」


 わたしはまたルーベンダイクに向かう。



 一方ジェイクとセレーナの間でも、激しいつばぜり合いが続いている。


「ヤッ! トォ!」


 くるくると身体を回転させながら、セレーナが次々と剣戟を繰り出す。


「ほっ、とっ」


 降り注ぐセレーナの剣を、ジェイクは見事にさばいていく。


「いい剣だ」


 ジェイクは剣を交えながら話す。


「身のこなし、間合い、太刀筋もいい。俊敏さに力強さもある。けれど――」

「けれど?」


 ジェイクはセレーナの剣を受け、ニッと笑う。


「勇み足だな」

「?」


 瞬間、リーゼロッテが叫ぶ。


「セレーナ、ひけ!」


 わたしと対峙していたルーベンダイクが踵を返し、セレーナに向かう。

 メティオの狙いも、いつの間にかリーゼロッテからセレーナに移っている。


 とっさにジェイクから離れるセレーナ。

 セレーナは身体をくねらせ、死角からの攻撃を避けようとする。


「くっ!」


 斜め後ろから繰り出されたルーベンダイクの槍が、セレーナの胴をかすめる。


「イェルサ組に一点!」


 ジュナの声が響く。


 ジェイクは、剣を構え直してじりじりとさがるセレーナに向かって、こう言った。


「三対三だってことを忘れちゃ困る」




   ◆




「ごめんなさい。敵陣へ深く踏み込みすぎたみたい」


 わたしたちの元へ戻ったセレーナが謝る。


「いや、私が忠告しなければならなかったんだ」


 リーゼロッテは言う。


「孤立し、浮いた敵を狙う……数的有利をつくるのが集団戦のセオリーだ」


「そうなの?」

「以前読んだ戦術書の受け売りだがな」

(うむ。彼女の言う通りニャ)


 にゃあ介の声。


「へえ、さすがリーゼロッテ」

「ともかく、一点の失点ですんでよかった」


 とリーゼロッテ。すまなそうな顔のセレーナ。


「大丈夫!」


 わたしは言う。遅ればせながら、そろそろわたしもエンジンがかかってきた。


「これから取り返そう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ