第二百十二話 模擬戦1
「それじゃあ、まずは……」
ジェイクは校庭の前で、腕を組んで立っている。
みんなは三人一組になって、ジェイクの方を見つめている。
「マルタ、エリン、シュノワック組」
ジェイクに指名され、おどおどと前へ進み出る三人。
「それから、リーチ、エルミン、サンバクの三人」
こちらの三人も戸惑いながら、みんなの前へ進み出る。
「使う模造武器は決まっているね?」
六人は校庭の前に用意された模造武器をそれぞれ手に取る。
マルタ組の、マルタ、エリンは模造剣。シュノワックは模造槍。
リーチ組の、リーチは模造槍、エルミンは模造剣、サンバクはムチを選んだ。
「準備はいいかな?」
ジェイクが言う。
「僕が審判をつとめる。有効打が入ったら、一点。決定打なら三点だ」
それから、
「多少怪我をしても、エスノザ先生が治してくれる。それにエオル先生の傷薬も、効果抜群だからね。思い切ってやるといい」
ジェイクはにっこり笑うと、宣言した。
「それじゃあ、はじめ!」
◆
合図がかかっても、両チームともすぐには動き出さない。
お見合いをしているみたいに、お互いじっとにらみ合っている。
見ているこっちのほうがもどかしくなり始めた頃、ようやく……
「やーっ」
意を決したかのように剣をふるい始める。
「わあっ」
マルタの剣をリーチが剣で受け止める。
そのまま押し合いになる。二人とも、もう汗をかいている。
「えいっ」
がしっ、と音がして剣が離れた。
その瞬間、リーチの剣がマルタの腕をとらえる。
「リーチチームに一点!」
ジェイクが右手を挙げる。
「くそおっ」
すぐさまマルタが切り返してリーチの太股を叩き、
「マルタチームに一点!」
点を取り返す。
一方、ムチの扱いに手こずるサンバクの胴に、シュノワックの槍が命中する。
「ぎゃっ」
「マルタチームに三点!」
戦いになれていないため多少ぎこちないが、必死さは伝わってくる。
「どっちもがんばれ!」
わたしは思わず応援するのだった。
◆
「それまで!」
ジェイクが模擬戦終了の掛け声をかける。
六人は、はあはあぜいぜい、肩で息をしている。
「七対十三で、リーチ組の勝ち!」
リーチ組の三人がガッツポーズをとり、マルタ組は肩を落とす。
「でも、いい戦いだったよ!」
ジェイクがねぎらう。それからイェルサの稲妻の面々が、
「マルタは、剣を振るとき重心がぶれるから、下半身を強化したほうがいい」
「サンバクちゃん。ムチの使い方、悪くないけれど、腕だけで振るのは無理があるわ。もっと全身を使ってねん」
と、今回の模擬戦で浮き彫りになった問題点を指摘していく。
「すごい! よく見てるなあ」
(うむ。さすがSランクパーティといったところかニャ)
にゃあ介も感心している。
「さて、それじゃあ……」
ジェイクがちょっと考え込む。
「勝ち残りにしようかな、と思っていたんだけれど」
息の上がったリーチ組を見て、
「できるかい? 組を変えた方がいい?」
「やらせてください!」
勝ってテンションの上がっているリーチ組は、そう答える。
「わかった。じゃあマルタ組は次の組と交代!」
こうして、模擬戦が次々と行われていった。
◆
「グンター組の勝ち!」
ジェイクが右手をグンター組の方へ向け、そう宣言する。
「それじゃあ次の組は……」
ジェイクが指名しようとしたそのとき、
「はい!」
と、大きな声が上がる。
意気揚々と手を挙げているのは、例の通り自信満々で倒れそうなくらい反り返った、ケインだった。
「はい! はい! 僕がやる!」
◆
「君は……えっと、ケイン君だね」
「そうです! 僕たちにやらせてください!」
ケインはそういいながらも、他の二人を引き連れてすでに前へずんずん進み出ている。
「まあ、そう言うなら……いいだろう。次はケイン組」
ケインたちは、皆の前へやってくると、うれしそうに三人とも模造剣を取る。
「はっはっは、みんな、僕が手本を見せてやるよ!」
「それじゃあ、位置について」
ジェイクが促す。
「いいかい? では、はじめ!」
ジェイクの掛け声がかかった途端、ケインたちはぶんぶん剣を振り回しながら、突進を始めた……。
◆
「はい、それまで!」
ジェイクが掛け声をかける。
「今回は引き分け、かな」
「はあはあ……どこがだよ! どうみても僕たちの勝ちじゃないか!」
ジェイクの言葉に不服そうな顔のケイン。
「ケイン君たちの組は……よく攻撃していたね。次からはもっと、攻撃一辺倒じゃなく、戦況に合わせて臨機応変に動くといい」
それからジェイクはグンター組に向かって、
「君たちは手数は少ないけれど、よく相手の動きを見ていた」
と褒めた。
「僕たちの勝ちだ!」
ケインが叫ぶ。
「……何であいつは、いつもああなんだ?」
となりでリーゼロッテがつぶやく。
わたしも苦笑いする。
(性格だから仕方ないんじゃニャいか?)
「うーんにゃあ介、身も蓋もない……」
「僕たちの方が強かった!」
ケインがまくしたてる。
「僕たちの方がどう見たって、攻め勝っていた。そうだろ!」
ケインがしつこいので、その場を収めようとしたのか、
「うん、そうだね。まあ、そういう点数のつけ方もあるだろうね」
ジェイクがそう答えた途端、
「ハハハッ!」
ケインは甲高い笑い声を上げる。
「やっぱりな! 絶対、僕の勝ちだと思ったんだ!」
「もう『僕たち』でもなくて、『僕』になってる……」
わたしは呆れて開いた口が塞がらない。
「おいみんな、いつでも僕の所へ来れば、稽古をつけてやるぞ! ハハハーッ」
完全に有頂天になっているケイン。
頬が上気して、赤くなっている。
「さあ、じゃあ次いこうか」
ジェイクがさらりと言う。
「セレーナ、リーゼロッテ、ミオン。前へ」
わたしはびくっと身体を震わせる。
――出番だ。
セレーナ、リーゼロッテと目を見交わし、前へ進み出る。
校庭のみんなの視線が集まる。
ケインが、これ以上ないにやにや顔で、振り返る。
「ハハッ、こりゃいいや! 僕がお前たちを、こてんぱんにのしてやる。おい、ネコ娘……」
「残念だけど」
ジェイクが割って入る。
「君たちでは彼女たちの相手はつとまらない」
はしゃいでいたケインの動きが止まる。
「何だって?」
言っている意味が分からないといった表情のケイン。
正直、わたしにもジェイクの意図するところがわからなかった。
「でも……じゃあ、わたしたちの相手は、誰なの?」
ジェイクはすこし微笑む。けれど、目には真剣な光が宿っている。
ジェイクが後ろを振り返って言う。
「ジュナ、審判を頼む」
「まかせてん」
ジェイク、ルーベンダイク、メティオの三人がこちらへ進み出る。
「君たちの相手は、僕ら。イェルサの稲妻の三名がつとめさせてもらう」




