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第二百十話 瑠璃鉄鉱をもとめて

 わたしたちはつるはしを二本借りて、各々それを手に握ったまま、山道を歩いていた。

 ここは、いつものトレーニング場の西側にある山で、草や木々の茂らない岩山だ。

 ハロルドさんは、このあたりで瑠璃鉄鉱が採れるだろうと言っていた。


「どこまで行くのー」

「もうちょっとよ。よさそうな岩場が見つかるまで」


 道はだんだん険しくなってくる。


「さっきからずっとそう言ってるんだけどぉ?」


「坂道を上るのは負荷がかかっていい鍛錬にニャる。一石二鳥ではニャいか」

「にゃあ介はわたしの頭の上にいるだけじゃん」


 にゃあ介がわたしの頭の上でぴょんと跳ねる。


「目の前の山に登りたまえ。山は君の全ての疑問に答えてくれるだろう」


「はぁ?」

「イタリアの登山家、メスナーの言葉だ。知らニャいのか?」


「知らないよ。だいたい、山がどうやって疑問に答えるのよ?」

「その疑問の答えも、山に登ればわかる」

「堂々巡りみたいになってる」


「あの辺りはどうかしら」


 セレーナが言った。

 左前方、少し先に、岩肌が剥き出しになっている場所があった。


「うん、いかにもありそう!」


 わたしたちはその岩へ向かって駆けよる。


「よく考えたら、お店でハンマーをそのまま買ったって、いいプレゼントとは言えないわ」

「そうだね。全部ハロルドさんのおかげだね」


「ええ。私たちだけの特別なハンマーを贈りましょう」

「うん! それからいつか、ハロルドさんにも何かプレゼント、贈らないとね」

「そうね。それはまた、リーゼロッテと相談しましょ」


 そう言うと、セレーナはつるはしを持ち上げてみせる。


「さっき、つるはしを借りるときに聞いたけれど、瑠璃鉄鉱は瑠璃色だから見ればそれとわかるはずだって」


 セレーナは続ける。


「高硬度鉱石で、ちょっとやそっとじゃ傷まない。それでいて火花を出さない特性があって、まさにハンマーにうってつけだって言っていたわ」

「へえ!」


 その言葉を聞いて、


「それはすごい」


 と、わたしのテンションも上がる。

 腕まくりをすると、わたしは言った。


「さあ、掘ろう!」




   ◆




「ていっ!」


 ドゴォッ。


 わたしは思いっきりつるはしを岩肌に突き立てる。

 いい感じで岩が崩れ、わたしは思わず叫ぶ。


「わ! 一発ですごくいいのがとれたよ!」


 しかし、セレーナがそのかけらをじーっと見て言う。


「だめよミオン。それはただの岩だわ。瑠璃鉄鉱が含まれていれば、青っぽくきらきら光るはずだもの」

「えーそうなの」


 わたしはまたつるはしで岩肌を叩く。


 ドゴォッ。


「これは?」

「ただの岩ね」


 ドゴォッ。


「これは?」

「岩よ」


 ドゴォッ。


「こ……」

「岩」


「もーっ全然見つかんないじゃん!」

「まあ、気長に探しましょ」




   ◆




「セレーナ、見つかったぁー?」

「いいえ、まだよ。ミオンは?」

「ぜんぜん見つかんないぃー」


 わたしたちは、各々つるはしを握って持ち場を分かれ、あれからしばらく掘り続けていた。

 岩山をカツカツ削り続けること数時間。すでに辺りは暗くなってきている。


「今日はこのくらいにしましょうか」

「そだねー。やれやれ、収穫なしか」


 わたしはふーとため息をつく。


「明日は見つかるといいわね」

「毎日授業が終わったら岩削りかー」


 つるはしを置いて腕を回し、コキコキと首を動かす。


「いったいどれくらいの確率で採れるんだろう? この岩、全部崩すとなるとちょっと気の遠くなる量だよね」

「ここを崩せば見つかるとは限らニャいだろう」


 にゃあ介が言う。


「そうよ。山全体を崩す気で探さないと」

「えー!」


 わたしは思わず声を上げる。


「それは冗談だけど。でも簡単に見つかるのなら、もっと坑夫たちが働いているはずでしょ。スナウ半島みたいに」

「そっか、そうだよね。でも……まいったなあ」


「文句言わないの。リーゼロッテとガーリンさんも頑張っているんだから」

「わかってるー。それにしても地味にきつい作業だなあ」


 明日も魔法学校の授業が始まるのは早い。

 わたしたちは疲れた腕をぷらぷらと揺り動かしながら、山道を下った。


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