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第二百七話 設計図

 朝、なぜか早い時間に目覚めた。


「ううーん……」


 二度寝しようかとも思ったが気合を入れて起き上がり、わたしは寮の談話室へ向かう。


「ん?」


 談話室へ向かってくる、一人の影があった。


「あ、リーゼロッテ!」


 リーゼロッテはわたしたちとは別の寮のはずだ。こんなに早くに、一体どうしたのだろう?


「おはよう、リーゼロッテ」


 リーゼロッテは一目でわかるほど元気がなかった。

 そのとぼとぼとした足取りは、疲れ切った中年サラリーマンのようだ。


「リーゼロッテ、どしたの! JKがそんな歩き方しちゃだめだよ」


 わたしが声をかけると、リーゼロッテはうつむいていた顔を上げ、言う。


「徹夜で設計図を描いていたのだが……機械の知識が不足していて」


「……そっか、描けなかったか。設計図」


 わたしはそう理解する。


「気にしないで。また別の方法考えようよ」


「描くには描いたのだが……」


 リーゼロッテが懐から数枚の羊皮紙を取り出す。


「えっ、描けたの? 見せて見せて!」


 彼女はためらいながら言う。


「あまり自信がないんだ」


「うん。それはわかったから、とりあえず見せてみてよ」


 リーゼロッテは羊皮紙をおずおずとわたしに渡す。


 わたしはそれを広げる。


「…………」


「だめだろう?」


 リーゼロッテがため息を吐く。

 わたしは設計図を見つめながら、


「いや、リーゼロッテ、これどこがだめなの?」


 と訊ねる。


「なに?」


 わたしは二枚目の羊皮紙にも目を通す。

 材料や寸法、正面からの図や側面からの図などが、詳細に書き記されている。


「わたしには完璧な設計図に見えるけど」

「そ、そうか?」


「んー、わたしこそ知識がないからわかんないけど……わかるのは」


 わたしは微笑む。


「やっぱりリーゼロッテはすごいってこと!」


 リーゼロッテはそわそわしながら、


「ミルはどう思う?」


 と、わたしの頭の上へ訊ねる。


「吾輩は機械はキラいニャ」


 にゃあ介は言う。


「いつも掃除機から逃げ回ってたもんね」

「……うるさいのは苦手ニャ。まあでも、その設計図はよさそうに見えるな」

「本当か?」


「専門家が見たらどういうのかわからニャいが」

「そうか、そうだよな」


 そこへ談話室の入り口から、セレーナが現れる。


「あら、リーゼロッテ、ミオン。早いのね」

「あっ、セレーナ。見てよリーゼロッテの設計図!」


「自信はないんだが」

「まだ言ってる。大丈夫だってば!」


 設計図に目を通したセレーナは、


「本当ね、とっても細かいところまで描いてある。すごいわ!」


 と手放しでほめる。


「早速、ガーリンさんに見せに行きましょう!」


 リーゼロッテは、まだ心配そうにつぶやく。


「自信がないんだ……」




   ◆




「おはよう、ガーリンさん!」


 ガーリンさんはいつも通り門の前で、登校する生徒たちを見守っていた。


「おっはようさん、ミオン、セレーナ」


 ガーリンさんは笑顔で答え、


「それに……リーゼロッテ!」


 わたしの後ろへ向かって手を振る。

 振り返ると、設計図を抱いたリーゼロッテがわたしたちからだいぶん遅れて歩いている。


「リーゼロッテ、はやくはやく!」


 わたしはリーゼロッテを急かす。

 ようやくリーゼロッテが追い付くと、わたしは言った。


「ねえ、ガーリンさん。見て欲しいものがあるんだけど」

「なんだ?」


「あの、実は作ってほしいものがあるんです」


 と、セレーナ。


「ほう?」


「うん。ガーリンさん、お願い。お礼はするから」

「ふむ、それで一体何を作ってほしいんだ?」


 リーゼロッテが、どこか気が進まない様子ながら、設計図を差し出す。


「これなんだが」


 心配そうなリーゼロッテ。


「どれどれ」


 ガーリンさんが羊皮紙を広げる。


「わからないかもしれない」


 リーゼロッテは落ち込んで見える。


「すまない。先生の前で大見得を切ったのに」


 そっか。リーゼロッテ、そんなこと気にしてたんだ。

 わたしは胸がぎゅっと締め付けられる。


「大丈夫だよ、きっと」


 祈る思いでガーリンさんに訊ねる。


「どうかな、ガーリンさん?」


 ガーリンさんはじっとリーゼロッテの設計図を見つめている。


 リーゼロッテは居ても立っても居られない様子で、


「だめか? これじゃ使いものにならないか?」


 ガーリンさんは、顔を上げ、言う。


「おまえさんがこれを描いたのか?」

「あ、ああ」


 ガーリンさんはそのごつい手でリーゼロッテの背中をどん、と叩く。


「たいしたもんだ!」


「ほ、本当か?」


 リーゼロッテは叩かれた衝撃でずり落ちた眼鏡を直しながら言う。


「ああ。まっことよくできとる」


 ガーリンさんは豪快に笑った。

 それから、「ふうむ」と顎をさすって設計図をとんとん、と人差し指で叩く。


「だが足りない部分もあるな」

「やはりそうか……」


 リーゼロッテの顔が曇る。


「修正が必要だ。手伝ってくれるな?」


 リーゼロッテはわたしたちと顔を見合わせ……その後うれしそうに、大声で答えた。


「もちろん!」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ 明らかに畑違いのジャンルにも関わらず、たったの一晩で設計図を書き上げるとかリーゼロッテ凄いな! しかも手直しの必要はあれども、その設計図が採用されるとか余程…
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