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第二百五話 新学期

「うう……セレーナさま」

「チコリ。バートとユリナの言うことをよく聞いて、この家を守って頂戴ね」


「セレーナさま、もう会えないのですか?」


 チコリの目には、うるうると涙が溜まっている。

 セレーナの別邸を発つ朝、チコリは肩を落としてヨタヨタとふらつきながら現れた。


「大げさね。そんなことはないわ、休みにはまた戻ってくるから」


「きっと、きっとですよ」

「約束するわ」


「うぅ……あたしも魔法学校へついていきたいです」

「わがまま言っちゃダメよ。まだ、保護観察の身なんだから」


 わたしも、


「チコリ、ちゃんと帰ってくるから心配しないで!」


 と請け合う。


「リーズ、チコリのことお願いね」


 リーズにセレーナが声をかける。

 リーズはわたしたちの(というかセレーナの)見送りに来ていた。


「セレーナもずっとここに居ればいいのに」

「そうはいかないわ。まだ魔法について、たくさん学ぶことが残っているもの」


 セレーナは言う。


「強くなるためには魔法が必要なの」


「魔法学校か……」


 リーズがつぶやく。


 まだしょんぼりしているチコリに、わたしは言う。


「わたしとリーゼロッテで、セレーナを引っ張ってくるから!」


 チコリはうなずくと、すこしだけ元気が出たのか、しゃんと背筋を伸ばした。

 それから強い目でわたしにこう言った。


「約束よ、ミオン」


 チコリとバートさん、ユリナさんに見送られ、わたしたちはセレーナの別邸を後にした。




「この休みには色々なことがあったね」


 乗合馬車に乗り込み、腰を落ち着けると、様々な思い出がよみがえってくる。


「ええ。冒険者ランクを上げてカライの村へ行って……それからチコリに出会って」

「図書館で調べものをして、鬼恤薬事件があって、また調べものをして、王子がやってきて……本当に色々あったな」


 緑の芝生を続く街道と、その向こうに見える白い王都。

 馬車に揺られ、王都がゆっくりと遠ざかっていく。


 空は青空で、輪を持つ星も地平の向こうによく見える。


「さあ、行こう。ルミナスへ! 久しぶりの魔法の授業が待ってるよ!」




   ◆




 冬の間に積もった雪もすっかり解け、ルミナスの空気は暖かくなり始めていた。


 新学期初めの朝、見上げたルミナス魔法学校の青い尖塔は、久しぶりに門をくぐるわたしたちのことを出迎えてくれているような気がした。




   ◆




 魔法学校では、通常、同じ学年を三つのクラスに分ける。


 第一クラス、第二クラス、第三クラス。

 一クラスの人数は同じくらい。このクラス別に授業が行われる。


「一年目は、わたしとセレーナが編入組だったのもあって第三クラスだったから、リーゼロッテと別々の授業になっちゃったけど」


 新学期の始業日、わたしたち三人はクラス分けの貼り紙を確認するため、掲示板の前に立っていた。


「今年は一緒だといいね!」


「そうね。でも、クラス分けは運もあるから」

「ああ。完全な成績順ではないからな」


「そっかー。あーどきどきする」


 わたしは背伸びして右手を額に掲げる。


「うーん、全然見えない……」


 結構早く来たつもりだったが、掲示板の前には人だかりがしていて、なかなか貼り紙が見えない。


 しばらく待っていると、前の人ごみが多少さばけてきて、ちょっとずつ進むことができる。

 数十分後、ようやく貼り紙が確認できた。


「あった。私は第一クラスだ」


 リーゼロッテがまず最初に名前を見つける。


 続いてセレーナが、


「私も第一クラスだわ!」


 と掲示板を指さす。


「えっと、わたしは……」


 わたしははやる心を抑えて名前を探す。

 二人と離れ離れになるのはいやだ。


「ない、ない……」


 ちょっとした絶望感が、わたしを包む。

 なんだか、この世界に来る前の学校を思い出してしまう。


 わたしだけ、仲間外れ。


「あっ!」


 あきらめかけたとき、第一クラスの貼り紙の端の方、そこにわたしの名前があった。


「あった! わたしも第一クラス!」


「本当に?」

「よかったな!」


「うん!」


 本当に良かった。

 この二人と一緒なら、こわいもの、ない!


「テストの順位が上位だったのも関係してるのかな」


 うれしくて仕方ない。

 踊り出したい気分だった。


 人前なので、それは抑え、かわりにわたしは拳を突き上げる。


「これで三人いっしょに授業が受けられるね!」




   ◆




「むふふー」


 授業中、わたしはにやにや笑いが止まらない。


 だってわたしの隣には、去年と同じようにセレーナが居て、その隣にはリーゼロッテもいる!


「ミオン、先生に叱られるわよ」

「ごめんごめん」


 わたしは頬の内側を噛んで、笑いを我慢する。

 それでもまたしばらくすると、この状況がうれしすぎて、自然と顔がほころんできてしまうのだった。


「おい見ろよ、相変わらず間の抜けた顔してるぜ」


 そんなケインの声もわたしの明るい心を消すことはできなかった。


「あいつも一緒なのは残念だな」


 リーゼロッテが言う。


「ケインが一緒なのはちょっとアレだけど、そんなの気にならないくらい嬉しいから、いい!」




 授業が終わり、わたしはセレーナとリーゼロッテに怒られる。


「ミオンったらずっと笑ってるんだから」

「ミオン、授業に集中できないだろ」


「ごめんって……。魔法の授業を、大好きな友だち二人と受けてるって思ったら、にやにやが止まんなくなっちゃって」


「もう」

「まったく」


「そ、そんなことより!」


 わたしは話題を変える。


「なんだ?」

「なんなの?」


「忘れたの? 見つけたでしょ、図書館で」


 わたしは手をぶんぶん振って、はやる心を表現する。


「はやくエオル先生のところへいこう! 例の薬草について訊きにいこう!」


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