第二百二話 みんなでお料理1
「まさかエオル先生の本だったとはな……」
「たしかに薬草学の先生なんだから、エオル先生に訊いてみればよかったんだね!」
セレーナの部屋でわたしたちは、手掛かりをつかめたことに興奮していた。
「魔法学校では、薬草のことも教えてくれるの?」
チコリが興味深そうに訊いてくる。
「うん、ほかにも、今はイェルサの稲妻に身体鍛錬の授業も受けてるんだよ」
「へえ~、いいなぁ~」
そんな話をしていると、ユリナさんがチコリを呼びにくる。
「チコリ、お食事の準備を手伝ってくれるかしら?」
「あ、はい!」
「お食事……今日のお夕食のメニューはなんだろな~。ムフフ」
(ミオン、よだれ)
「そうだわ。チコリ、あなたの故郷のお料理を作ってみてはどうかしら」
「あ、あたしのですか?」
「ええ。メニューのレパートリーを増やしたいと思っていたの」
「いいわね。ネコ族の料理、私も食べてみたいわ」
「でもあたし、小さい頃に奉公に出されちゃったから、ネコ族の料理ぜんぜん知らないの」
「そうか、残念だな……」
リーゼロッテはすこし考えて、
「そうだミオン。ミオンがネコ族の料理をチコリに食べさせてあげたらいいんじゃないか?」
「ね、ネコ族の料理?」
チコリを見ると、チコリは救いを求めるような目でわたしを見つめ、言う。
「教えて、ミオン!」
「あの、でも……」
「ね、作って、ミオン。ネコ族の料理!」
あわわ、えらいことになった……。
ネコ族の料理なんて、わたしも知らないし。
困っていると、
(誰も知らないんだから、適当に作ればいいんじゃニャいか?)
にゃあ介が言う。
ずいぶん乱暴な意見だが、
「……そっか、そうだね」
と変に納得してしまった。
「わかった、作ってみる。でもその代わり、チコリもセレーナもリーゼロッテも、何か一品作ってよ」
「えっ」
「私たちも?」
「うん。チコリはユリナさんに助けてもらって。セレーナとリーゼロッテは何か作れるよね?」
「えっと」
「ま、まあ……」
「作れないことはないと思うが……」
三人とも、もごもご言っている。
わたしは、にやっと笑って宣言する。
「決まり! 今日はみんなでお料理対決!」
◆
「面白そうですね。やりましょうやりましょう」
ユリナさんはすごく乗り気だった。
「みなさんの手料理を食べられるなんて、楽しみですな」
と、これはバートさん。
「そうと決まれば、まず買い出しです」
ユリナさんは率先して計画を立てる。
「これからみんなで、料理に必要な材料を買い出しに行きましょう」
「わあ、楽しそう!」
「何を買おうかしら?」
わたしたちは盛り上がる。
「セレーナ、何を作る?」
「…………。リーゼロッテは?」
「そうだな……」
ユリナさんは、人差し指を立てると、
「料理が出来上がるまで、何を作るかは秘密。他の人が何を買ったか、なるべく見ないようにしましょうね」
そう微笑んだ。
◆
「まずは野菜。ここは王都の中でも新鮮な野菜を取り扱っている青果店です。各自、好きなものを買ってください」
ユリナさんの案内で、わたしたちは青果店の前に来ていた。
「う~ん、何を買おうかなあ」
「迷うわね」
「ふむ、私はあれにしようかな」
それぞれ思い思いの青果を手に取る。
チコリは、わたわた走ってユリナさんに訊ねたりしながら、野菜を選んでいる。
「さあ、もういいかしら?」
しばらく後、ユリナさんが訊ねる。
「それでは、お勘定をすませて、次へいきましょう」
「さあ、お肉屋さんです。良質なお肉が揃っていますよ。このあとは海鮮屋さんへ行きますからね」
「おお~。やっぱりお肉は必要よね!」
「お肉……。さっぱりとした味付けにしたいから、やっぱりあれかしら」
「私は海鮮メインでいくつもりだが、やはりすこし買っておこう」
わたしは店内に入ると、陳列されているさまざまなお肉を順に見ていく。
「……何の肉かわかんない。どうしよう」
(異世界の知識がないからニャ。ま、フィーリングで買うニャ)
にゃあ介はまた適当なことを言っている。
「これかなぁ……」
料理は嫌いじゃないけど、なんだか自信なくなってきた。
大丈夫かなあ。
「さあ、海鮮屋さんですよ。ここで最後です。みなさん、好きなものを買って」
「よし、狙っていたものはここにあるはずだ」
「何買うのー? リーゼロッテ」
「まだ内緒だ。見ちゃ駄目だぞ」
「えー、セレーナはー?」
「私も内緒よ」
「うーん。チコリー」
「だめよミオン。できるまでお楽しみ!」
店内に入ると、
(おいミオン、ここはいい匂いがするニャ!)
にゃあ介のテンションが上がる。
確かに、海鮮の匂いが目一杯、店内に立ち込めている。
わたしは言う。
「やれやれ……ネコ族の料理だし、あれ買っとく?」
(ニャハー!)
◆
「みなさん、食材は揃いましたね。買い忘れはないですか?」
ユリナさんが言う。
「それでは帰りましょう。食材を落とさないように!」
皆それぞれ買い込んだ食材の袋を両手に抱え、転ばないように帰り道を歩いた。
セレーナ邸に帰り着くと、すでにかなりいい時間だった。
「いやー、疲れたね!」
「何を言っているんだ、これからが本番だぞ」
「ああそうか。お腹空いた……早く作ろう!」
「ふふ。今日はたくさん食べられるわよ、ミオン」
「えへへ、楽しみ!」
わたしは買い込んだ食材を台所へ運びながら、
「チコリ、がんばってね!」
とチコリに話しかける。
「うん、やってみる!」
チコリは気合の入った声で、そう言った。




