第二百一話 禁書閲覧2
「禁書というのも結構数があるんだな!」
リーゼロッテはしきりに感心している。
わたしたちは王立図書館の地下にある、禁書の保管庫で調べものをしている。
「『黒魔法-呪いの秘術-』……こんな本は初めて見た。こ、これは『魔族領変遷』じゃないか! 本物が見られるなんて……」
リーゼロッテは止まらない。
「『世界から失われた歴史』? おお、こんなのもあるのか!」
「リーゼロッテ、よだれよだれ」
「薬草関係に限ればそれほど数は多くないはずよ。さあ、探しましょう」
「う、うむ」
ごくり、と唾を飲み、
「この辺りか」
リーゼロッテは棚へ手を伸ばすとおそるおそる本を取る。
「閲覧を禁じられた幻の書物……それが今、私の手に」
やれやれ。リーゼロッテは大げさなんだから。
「じゃ、わたしも」
わたしとセレーナも本を取る。
「ここで見つからなかったら、もうお手上げね」
しばらくわたしたちの様子を眺めていたユンヒェムだったが、
「じゃあ僕は行くよ」
と告げる。
「え?」
「司書には、君たちに好きなだけ調べものをさせるよう伝えておく。……悪いけれど、馬車は使わせてもらうね」
それから、
「じゃあね、僕の愛しい人」
セレーナに投げキッスをして去っていった。
ふう、とため息をつくとセレーナは言った。
「さ、探しましょ」
◆
「うーん」
カライの村で長老に聞いた、魔力を持つ薬草。
旧極魔法復活のために必要なその薬草の正体を突き止めようと、もう何時間も頑張っているのだが……。
「だめだ、見つからない」
わたしは本棚に寄りかかり、天井を見上げる。
ランプの火でうっすらと見える天井は、なんだかちょっとでこぼこしていた。
ふう、とため息を吐き、
「セレーナは?」
と訊ねる。
「私も。見つからないわ」
セレーナもため息を吐く。
わたしは目をこすりながら、
「文字ばっかり眺めてたら、目がちかちかしてきた。ここ暗いし、椅子もないし……リーゼロッテ?」
隣へ目をやると、熱心に本を読みこんでいたリーゼロッテが、
「ううむ」
と、唸る。
「どしたの、リーゼロッテ」
リーゼロッテが読んでいた本をわたしに手渡してくる。
「この部分を読んでみろ」
わたしは受け取って、リーゼロッテの指さした部分を読み始める。
「なになに……このように、薬草の中には、わずかに魔力を含むものも存在する。ええっ!」
魔力を含む薬草……探していたものかも!
「ね、これもしかして!」
「よく見つけたわね!」
セレーナが感嘆の声を上げる。
「さすがリーゼロッテだね。本にかけては右に出るものなし!」
と、わたしは褒めちぎるが、リーゼロッテの顔を見ると、彼女は難しい顔をしている。
「?」
わたしは本に目を落とし、続きを読む。
「治癒や、毒消し、気つけ、その他において、その魔力が有用に作用することもある」
指でなぞりながら読み進めていく。
「またその中には、古の時代に大魔導士と――」
わたしははっと息を飲む。
「大魔導士と呼ばれた人物が探し求めたと言い伝えられる薬草もある。きゃーっ」
思わず歓声を上げる。
「やっぱり! やっぱりそうだ。これがその薬草だよ!」
だがリーゼロッテはまだ眉間に皺を寄せている。
「そうでしょ? ちがうの?」
リーゼロッテが黙って先を読むよう促す。
「えっと……言い伝えられる薬草もある……だが」
興奮して早口になる。
「だが、それについては、解説を別の機会に譲ることとする……えっ」
わたしは本を取り落としそうになる。
「肝心なことが書いてない!」
リーゼロッテが残念そうに、
「そうなんだ。これが私たちの探す薬草であることは間違いないんだが……」
「そんなぁー!」
天を仰ぐ。
「えーん。なんで、もっとちゃんと書いといてくれないのよう」
わたしはがっくりとうなだれる。
ようやく手がかりを見つけた、と思ったらこれだ。
ここで見つからなかったら、もう探しようがない。
「どうしよう。もう、八方ふさがりだよう」
泣き言を言いながら、わたしが本を閉じたときだった。
「まったく、注意力が足りないニャ」
にゃあ介が言った。
「え、どういうこと?」
「まだ読んでいない部分があるニャろ」
「いや、この本は私が一応最後まで目を通した――」
リーゼロッテが言う。
「……待て!」
リーゼロッテが小さく叫ぶ。
「なに?」
顔を上げてわたしが訊ねると、リーゼロッテは本の表紙を指さす。
「『秘薬のための秘密の薬草、その用途と生息域』……これが何?」
「題名じゃない。著者を見ろ」
わたしたちは、同時に本の著者名を読み上げる。
「エオル=セヴァイツ=アレクサンドロス」
三人でハッと顔を見合わせる。
「……これエオル先生の本だ!」




