第百九十七話 王の寝室
「失礼します」
寝室に入ると、部屋の真ん中には大きなベッドがあり、髭を蓄えた男性が横になっていた。
あれが王なのだろう。
室内には王のほかに何人かの人間がいた。
入口近くに立っている二人は、おそらく第一王子と第三王子だ。
一人はユンヒェムと同じぐらいの背丈で、もう一人はすこし低くまだ幼さの残る顔立ちをしている。
城の中を歩いてくる間に、すこしだけ予習した。
それによると、背の高い方が第一王子のユビル、低い方が第三王子のセタだ。
王の側に二人の女性がいる。
白い衣装に白いブリムをつけているのはメイドだろう。
もう一人は、白いロングドレスといくつかの宝石に身を包まれた、いかにも上品そうな女性。
王のベッドの隣に座っているあの人は、もしかしたら王妃さまかな?
王はベッドに横になり、背中の下に枕を敷いてすこしだけ上半身を起こしている。
わたしたちが入ってきたのに気づいて、皆がこちらを振り向いている。
「ユンヒェム、待っていたぞ」
王は低く響く太い声でそう言った。
こちらに向けられたその目は鋭い光を宿している。
床に臥せってはいるが、王としての威厳を失っていない。
「……そちらは?」
「紹介するよ、父さん、母さん。彼女はセレーナ。僕の妻になる人だ」
わっ、来た。
いきなりセレーナの出番!
焦っているわたしとは対照的に、セレーナは落ち着いてスカートをつまみ、深くお辞儀をする。
やっぱりサマになってる。
でも、大丈夫かなあ。嘘がばれたらとんでもないことになるんじゃ……。
わたしはハラハラしながら見守る。
「まあ!」
王妃は、口に手を当てて驚く。
「本当なの? よくお顔を見せて頂戴。えっと、セレーナさん?」
セレーナは顔を上げ、はにかんだような微笑みを見せる。
「お目にかかれましたことを大変光栄に思います、陛下」
おおー、完璧な演技。
「なんと。……お前にそんな甲斐性があったとはな」
「あなた」
王妃が王の肩に手を置く。
「おめでたいことだわ。お祝いしなくては」
「素晴らしい女性だよ。僕にはもったいないくらいだ」
ユンヒェムは言う。
「本当なのか、ユンヒェム」
ユビル王子が眉を上げる。
「驚いたな」
「へーっ、驚いたなあ。ほ、本当なのかい」
セタ王子も驚いた様子だ。
ユビルに比べて、セタはどこかおどおどしているように見える。
気弱な性格なのだろうか。
王がわたしとリーゼロッテを見る。
「その二人は?」
わたしはびくっ、と身体をこわばらせる。やばい、わたしの番だ。
「こ、このたびはまことにお日柄もよく……」
「彼女たちはセレーナの親友でね。一心同体といっていいほど仲がいいんだ」
リーゼロッテがお辞儀をするのを見て、わたしも慌ててお辞儀をする。
ひゃー、顔ひきつってないかな。
王はすこし思案した様子で天井を見上げ、
「そうか。そういうことならば、彼女たちにも聞いてもらおう」
「……いったい何事だい、父さん。家族全員を集めて何を始めようってんだい」
ユンヒェムが訊ねる。
王は威厳のある口調で答えた。
「よく聞け。私はお前たち三人のうちの誰かに、王の位を譲る」
◆
「なんだって」
「父上!」
「父さん、そんなこと言わないでおくれよ」
三人の王子が口々に驚きの声を上げる。
「私はもう長くはない。世継ぎを決めねばならん」
お付きの者が慌てた様子で、
「陛下、そのような話を部外者のいる前で……」
「かまわん。いずれユンヒェムの伴侶になるものだろう?」
王が制する。
王妃は、王の意向をすでに知っていたのか、驚いた様子はない。
ただ静かにこちらを見守っている。
「次の王を決めねば安心してこの世を去れぬ」
すると、第三王子のセタが困ったように、
「そ、それじゃあ、みんなで相談して……ねっ? 家臣たちの意見も聞いて、会議して決めなきゃ……ねっ?」
と話す。
王は言う。
「ならん。お前たちだけで、今、この場で決めよ」
「そ、そんな……!」
セタは青くなって汗をかいている。
ユビルは難しい顔をして黙っている。
ユンヒェムの表情は読めない。
わたしはびっくりして、王さまとそんな三人の王子を順番に見比べる。
「す、すごい場所に居合わせちゃった……」




