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第百九十四話 猛反対

「言ったでしょう、私は誰にも嫁ぐ気は……」


 全く論外だ、というようにセレーナは言いかける。

 だがユンヒェムは言う。


「実際に結婚してくれ、と言っているわけじゃない。婚約者フィアンセのふりをして欲しいんだ」


 セレーナは大きく眉を上げ、


婚約者フィアンセのふり……グランパレス王をだます、と言うの?」


 するとユンヒェムは、床に視線を落として言う。


「父は……」


 すこしトーンを落とした声で、


「父はね、もう長くないんだ」

「なんですって」


「ああ。危篤といっていい状態なんだ」


 セレーナは驚いて手を口へ持っていく。


「最近病気がちだとは聞いていたけれど、そこまで容態が悪化していたなんて」

「一応機密事項だから他言しないでくれよ」


 ユンヒェムが言った。


「臨終の床の父を安心させてやりたいんだ。僕の婚約者フィアンセとして、会ってくれないか」


 セレーナはすこし考え、


「……できないわ」


 と首を振る。


「危篤だからといって王を欺くのが正しいとは思えない」


 ユンヒェムはため息を吐く。


「だめかい」


 残念そうに言ったあと、顎に手を当て、すこし思案する。それから、


「……そうだ、これならどうだい」


 と、何かを思いついたように手を叩く。


「今度は何なの」


「セレーナ、最近、図書館で探し物をしているんだろう」

「……それが何?」


「いったい何を探しているんだい?」

「あなたには関係のないことだと思うけれど」


「……知っているかい、王立図書館には、禁書を扱った書庫があることを」


「なんだって?」


 セレーナのかわりにリーゼロッテが声を上げる。


「聞いたことがない! 本当なのか?」


「特別に許可された学者や、ごく一部の王族しか知らないことだからね。……そこなら君たちの探し物も見つかるかもしれない」


 ユンヒェムは微笑み、こう言った。


「セレーナ、君が提案を受け入れてくれるなら、僕が禁書閲覧の許可を出そう」




   ◆




「絶対ダメです!」

「絶対ダメ!」


 ユンヒェムが帰ったセレーナ邸。

 チコリと、あの後やって来たリーズがセレーナに猛反対している。


「セレーナさま、あんな人の婚約者フィアンセだなんて、いけません!」

「ダメよ、セレーナ、絶対ダメ。だまされているのよ。弱みを見せたら、本当に結婚させられてしまうわ」


 ひとしきり二人の反対意見を聞いたあと、


「どう思う? ミオン」


 セレーナがわたしに訊ねる。


「王子がセレーナをだます気だとは思わないけど……。どちらかというと、わたしも反対だなー。だって結婚って、大ごとだもんね」


 わたしが言うと、


「……そう。リーゼロッテは?」


 と訊ねる。


「王族の前で婚約を宣言したら、既成事実にされかねない。慎重になったほうがいいと思う」


 リーゼロッテがそう答える。


「みんなの意見はわかったわ」


 セレーナはそう言うと、皆を見回してから一度大きくうなずき、言った。


「私、提案を受けるわ」


「セレーナ!」

「セレーナさま!」

「なに考えてんの!」


 皆が一斉に反対の声を上げる。

 けれどセレーナは、


「みんなありがとう、心配してくれて。でもね」


 微笑み、続ける。


「やはりそれしかないわ。図書館の本はほとんど調べつくした。禁書コーナーに入る必要があるわ」


 わたしは思う。反対しても無駄だと。

 セレーナの話し方には、断固とした意思が感じられる。

 こうなったら、セレーナはきっと譲らない。


 それでもみんなが引きとめたがっているのを見て取ると、セレーナはこう言う。


「言ったでしょう? ユンヒェムは、ああ見えて悪い人間じゃない」


 それからちょっと不安そうに、こうつけ加えた。


「……たぶん、ね」


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