第百九十一話 リーズの本音
「ねえリーズ。リーズはミオンのことが嫌いなの?」
チコリの質問に、リーズは、しばらく口を閉じている。
わたしが、やっぱり立ち聞きはやめて出ていこう、と思い立ったとき、リーズが話し始めた。
「私、セレーナとは幼い頃から友だちなの」
「うん」
「セレーナと一緒に、セレーナのお父さまに剣の稽古をつけてもらったりしたわ」
「いいなあ。あたしにも幼馴染とかいたらよかったのになあ」
「チコリは小さい頃から奉公だもんね。えらいわ。私、本当にすごいと思う」
「ううん、そんなことない。……それより、続きを聞かせて」
リーズはまたすこし間を切って、
「ヴィクトリアス家は名門だし、セレーナはきれいだもの」
「うん」
「セレーナに取り入ろうと寄ってくる、よからぬ輩は今までにもたくさんいた」
リーズは笑う。
「そういう虫を追い払うのも、私の役目だったの」
するとチコリが、
「ミオンはそういうのじゃないと思うけど……」
と口をはさむ。
「…………」
リーズはすこし考え込むと、
「……だけど本音はね」
ぽつりと言う。
「嫉妬かな、やっぱり」
「嫉妬?」
チコリが不思議そうに訊く。
「私、生まれたときから馬鹿力で、大人にも負けなかったの。父さんは神から授かった贈り物だって喜んだわ」
チコリはリーズの話に聞き入っているようだ。
「だけど、私はこの力が嫌いだった。みんな、変なものでも見るように私を見るの」
「…………」
「でも、セレーナだけは違った。私と普通に接してくれた」
「そうなんだ……」
リーズは続ける。
「チコリも、セレーナのお父さまが何者かに殺された話は聞いたわよね」
「…………うん」
「つらい事件だった。今でも、あのユリウスさまが死んだなんて信じられない……あのあと、セレーナは変わったわ」
リーズは本当につらそうに話す。
「剣以外のことには目もくれなくなった」
「セレーナさまが……」
「セレーナは旅に出たわ。相談はなかった。後から聞いたの。お父さまの仇をとる……そう言って旅立ったって」
リーズはふっ、とため息を吐いて、
「私はセレーナに、何もしてあげられなかった」
残念そうに言う。
「だけど、あのおん……ミオンが現れてから、セレーナはまた変わった」
わたしはどきりとする。
リーズがわたしのことをミオン、と呼んでくれるの、初めてかも。
わたしが喜んでいると、
(あの女、と言いかけてたけどニャ)
にゃあ介が水を差す。
わたしはそれを無視して耳をそば立てる。
「あんなに楽しそうにしているセレーナを見たのは、久しぶりだった」
リーズは言った。
「ミオンは、セレーナの笑顔を取り戻した。私にできないことをやった。……それが気に入らないのかもね」
「リーズ…………」
そこまで聞くと、わたしは音を立てないように後じさりをはじめた。
◆
「おおい、チコリぃ! リーズぅ!」
庭の中ほどまで戻ってから、わたしはわざと大声を出して二人を呼ぶ。
「ミオン?」
ゆっくりと、植木の陰から二人が現れる。
「あっ、そこにいたんだぁ!」
(わざとらしいニャ~)
「チコリ、ユリナさんが夕食の準備を手伝ってほしいって!」
「うん、わかった。すぐ行く!」
チコリはそう答えるが、リーズはいつも通り、あさっての方向を向いている。
でも、さっきの話を聞いたわたしは、そんなリーズに腹を立てる気なんて全然起こらない。
大好きなお姉ちゃんをとられてむくれている妹みたいなものかな。
セレーナのことを大事に思うのは、リーズもわたしも同じ。
心を開いてくれるのを気長に待とう。
そんな風に思うのだった。




