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第百八十八話 あたらしいメイド※挿絵あり

 法廷では引き続き裁判が行われた。


 首謀者であるベルテンクには厳しい処分が言い渡された。

 ベルテンクは最後までふてぶてしい態度だったが、鬼恤薬キジュツヤクをベルテンクと取引したとんがり帽の男は、法廷で泣きわめきだして大変だった。



 とにかくこうして、王都の鬼恤薬事件は幕を閉じた。




   ◆




「この子がチコリちゃん?」


 セレーナの別邸、ユリナさんとバートさんが、初めてチコリと顔を合わせている。


「初めまして、チコリ。私、ユリナよ」


 チコリは緊張して固くなっている。


「私はバート。この家の執事だ」


「は、初めまして、チコリです……」


 ようやく小さい声で自己紹介するチコリ。


「うむ。君にはメイドとして、この家でユリナの仕事を手伝ってもらう」


 バートさんがそう言うと、


「あ、あの、よろしくお願いします!」


 チコリがすごい声で叫ぶ。


 チコリ、ボリューム設定まちがえてるよ!

 わたしの中で心配と微笑ましい気持ちが、混ざり合う。


 それからチコリはぺこりんと頭を下げる。


「うふふ、そう固くならないで。あなたにプレゼントがあるの」


 ユリナさんがほほ笑む。


「あたしに?」


「セレーナさまから話を聞いて、準備しておいたのよ」


 ユリナさんはそそくさと後ろへ引っ込んだかと思うと、大きな布袋を持って現れる。


「はい! チコリ、あなたによ」


 チコリは、ユリナさんから渡されたその袋を胸に抱え、戸惑っている。


「さあ、開けてみて」


 まだもじもじしているチコリに、


「開けてごらんよ、チコリ」


 わたしは言う。


 チコリはおずおずと袋を開ける。

 中から出てきたのは、衣服のようだった。


 白いレースのたくさんついたそれは……メイド服のようだ。


「これを、あたしに?」


「そうよ、早く着てみて!」


 ユリナさんは何故か興奮している。

 自分に妹分ができたのが嬉しいのかもしれない。


「あら……ちょっと大きいわね」


 チコリがメイド服に袖を通すが、全体的にぶかぶかだ。


「困ったわね……どうしましょう」


 ユリナさんが顎へ指を当て、思案する。

 すると、わたしの隣でリーゼロッテの眼鏡が光った。


「任せてくれ」




   ◆




「わあ!」


 わたしは思わず声を上げる。


「ふむ」


 リーゼロッテが丈を確かめながら、満足そうにうなずく。


挿絵(By みてみん)


 彼女が直した寸法は、完璧だった。


「ありがとうございます、リーゼロッテさん」


「よく似合っているわ」


 とセレーナ。


「ありがとうございます、セレーナさま!」

「……チコリ、セレーナ『さま』なんて呼ばなくてもいいのよ」


 セレーナが言う。

 するとユリナさんが、


「あら、いけませんわ、セレーナさま。チコリはこれからここで働くんですもの。規律は守ってもらいます」

「でも……」


「いいの! あたしがそう呼びたいんだから、そう呼ばせて」

「チコリがああ言ってるんだから、呼ばせてあげれば?」


 なんとも言えない顔のセレーナに、わたしは言う。


「ありがとうミオン!」

「いいのいいの……ってわたしはミオンなの?」

「だってミオンはミオンだもの」


(敬称で格付けされてるみたいだニャ)


 ……なんだか複雑だけど、まあいっか。


「それじゃあ、部屋を案内するわ。ついてきて」


 ユリナさんが言う。

 わたしたちはユリナさんの後について、屋敷内を歩いていく。


 一階玄関近くの部屋の前でユリナさんが立ち止まる。


「ここよ」


 ユリナさんが扉を開けると、


「わあ、きれい! ここがセレーナさまのお部屋ですか?」


 チコリが訊ねる。


「いいえ。ここはあなたの部屋よ、チコリ」


 一瞬絶句したチコリは、


「あたしの? そんな!」


 とかすれ声で、


「あたし、こんないいお部屋、住んだことない……」


「今日からここが、あなたの部屋です」


「信じられない……本当にここに住んでいいの……?」


 チコリは目をぱちぱちさせて部屋を見回している。


「いいなあーチコリ。わたしもこんな部屋欲しいなー」

(はしたニャいぞミオン。とはいえ、まあワガハイもこの家のベッドの寝心地は気に入っているがニャ)


 指を咥えて見ているわたしに、にゃあ介が突っ込む。


「ええ、あらためまして……」


 こほん、とユリナさんは小さく咳ばらいをして、言う。


「チコリ、今日からあなたはこの家のメイドよ。よろしくね!」


 わあ! と皆から拍手が上がる。

 チコリは赤くなってぺこぺこお辞儀している。



 と、そのとき玄関の方からドアノッカーの音がする。


「客人のようですな」


 バートさんが首を傾げる。


 ユリナさんがぱたぱたと走っていき、扉を開ける。


「あら、いらっしゃいませ」


 ユリナさんの驚く声が聞こえてくる。

 そして客人の声。


「こんにちは。……チコリ、いますか?」


 チコリに客人?

 わたしはまずそのことに驚く。


 チコリが部屋を出て、玄関に向かう。

 顔を出して確認したわたしは、客人の姿を見てもう一度驚き、思わず二度見する。


 ニコニコ顔で、チコリに向かって手を振る彼女を、わたしは一瞬誰だか認識できない。


「チコリ! きちゃった」


 誰だかわからなかった一因は、いつもの白い甲冑ではなく白い衣服を身にまとっているからだ、とようやく気づく。


 そう、訪ねてきたのはリーズ=エアハルトだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ チリコの再就職も決まって一安心。 リーズとも仲良くなっているみたいだし、ミオン達が学園に戻っても寂しい思いをしなくても済みそうですね(*´∇`*) [一言]…
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