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第百八十一話 図書館で調べもの

 翌日の朝目覚めると、リーゼロッテがわたしのベッドの横で羊皮紙を小脇に抱えて仁王立ちしていた。


「わっ」

「さあ行こう」


 リーゼロッテが眼鏡をくいと上げると、レンズがキラーンと光った。


「おはよ……早いね、リーゼロッテ。寝れた?」


「うむ、ぐっすりとな。ここのところ野宿だったから、このベッドは最高だ」


 となりを見ると、セレーナが目を覚ましたところだ。


「おはよう、二人とも」


 目をこすりながらセレーナが言う。


「おはようセレーナ……このベッド本当にふかふか。いつまでも寝てたい」


 わたしがまた毛布に包まろうとすると、


「ミオン」


 とリーゼロッテが毛布を引っ剥がす。


「うう、やめてリーゼロッテ。もうちょっとだけ寝かせて」


「さあさあ、起きろ。もう行くぞ」


 ついでにセレーナの毛布も剥がすリーゼロッテ。


「セレーナ。行こう、早く」

「え、ええ……」


 寝衣のまま目をしぱしぱさせるセレーナ。


「やれやれ。リーゼロッテは本となったら目の色が変わるんだから」


 しょうがなく、わたしは起き上がる。


「さあ行こう、すぐ行こう」


 リーゼロッテに急かされながら準備を整え、ユリナさんの用意してくれた朝食をとった後、わたしたちは王立図書館へ向かった。




   ◆




「この静けさ、この眺め。それからこの匂い」


 リーゼロッテは図書館へ入るなり、周りを見回しながら深呼吸している。


「最高だな」

「はは、そ、そだね……」


 わたしは苦笑いする。

 図書館で深呼吸する変人いる?

 本のことになると、リーゼロッテはなんかこわい。


「わたしの守備範囲はラノベだけだからなー」


 小難しい本を読むより、わたしは剣の練習や、魔法の練習してる方が楽しい。

 そっちの方が、わけわかんない文章を目で追っかけてるより断然、ラノベっぽいし!


「だけどまあ、たしかにこの図書館の本の量は、すごいね」


 まるで世界中の本が集まったみたいなこの場所は、わたしでも圧倒される。

 リーゼロッテみたいな本好きなら、興奮するのもしょうがないだろう。


「この世界には漫画とかないのかな」


 わたしがぶつぶつ言いながら本棚を見上げていると、リーゼロッテが待ちきれないようにこう言った。


「さあ、とりかかろう」




   ◆




「薬草に関する本は、と……」


 本棚を見上げながら、図書館の中を歩く。


「とりあえずこのあたりが薬草に関する本だな」

「ええ! ちょっと待って」


 わたしはすでにして怯んでいた。

 リーゼロッテが指したその一角だけでも、とんでもない量の関連書籍があった。


「こんなの、とても終わらない……」


(まだ始める前から、何だ。千里の道も一歩から、ニャ)


「だって、尋常じゃないよこれ」


 わたしは、天を仰ぐ……というか、本を仰ぐ。

 ずらーっと並ぶ、本また本。

 それらすべてが、薬草や植物に関する本だ。


(本に触れるいい機会ニャ。楽しい時間ではニャいか)


「……あんたとリーゼロッテは、楽しいかもしれないけどねー」


(知は力なり。フランシス・ベーコン)


「はぁー……」


 ため息をつきながら、わたしは何冊か手に取り、書見用のテーブルへ持っていく。


 そこではすでに、リーゼロッテが座り、黙々と本を読んでいる。

 その前には、彼女が持ってきた大量の本。


「楽しそうだね……リーゼロッテ」


 だがリーゼロッテはわたしの声も耳に入らないくらい、一心不乱に本にのめり込んでいる。


「あはは、久しぶりだもんね、本読むの……。よかったねー」


 棒読み気味につぶやいていると、やがてセレーナも本を両手に抱え、やってくる。


「なにしてるの、ミオン。始めましょ」


 セレーナが本を置いて言う。

 テーブルにうず高く積まれた本を眺め、ふう、と一度息をつく。


「仕方ない、やるか」




   ◆




 どれだけ時間が経っただろうか。

 探しても探しても見つからない。魔力を持つ薬草の情報。


 何度も本棚と書見用のテーブルを移動し、何千というページをめくり……、

 いい加減、目がシパシパしてきた。


「よし、それじゃあ今日はここまでにするか」


 リーゼロッテがぱたり、と本を閉じる。


「お? めずらしい」


 わたしはちょっと驚く。

 リーゼロッテがわたしたちより先に切り上げるのを提案するなんて。


「明日もあることだしな」

「……」


 今日こんなに頑張ったのに、また明日もまた本を漁るっていうの?


「明日も朝から頑張らねば。それに備えて、今日は帰ろう」


 リーゼロッテの顔は、なんだか溌剌としている。


「ぜ、全然めずらしくない……」


 わたしがよろよろと立ち上がろうとすると、リーゼロッテはさらにこうつけ加えた。


「それから明後日も、その次もな」


「うぅ、心折れそう」


 と、机に突っ伏すのだった。


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