第百七十九話 楽しい夕べ
次の停車場についたのは、辺りが暗くなりかかったころだった。
小さな街の前で馬車を降りる。
わたしが凝り固まった身体を動かしていると、
「ねえミオン。約束!」
待ちきれない、という様子でチコリがせかす。
「約束って?」
「もう! 忘れたの?」
チコリはぷくーと口をとがらせる。
「ウソウソ。わかってるって」
わたしは苦笑しながら、
「魔法でしょ。ちゃんと見せてあげるから」
「やったー!」
「ふふ。なんだかチコリはミオンの小さい版みたいね」
「ははは。言えてる」
セレーナとリーゼロッテが笑う。
わたしも笑う。小さい子って、やっぱり「魔法」って言葉にときめいちゃうよね!
「はやくはやく!」
「それじゃさっそく炎の魔法を……」
わたしはふと思いついて、こう提案した。
「せっかくだから、キャンプファイアしようよ。木を集めて火をつけて、みんなで眺めるの」
「キャンプファイア……焚き火のこと? ウェスラビル山で、リーズたちとやったような」
セレーナが訊ねる。
「そうなんだけど、もっと大きいやつ! それで火の周りで話したり、歌とか歌ったり……」
セレーナとリーゼロッテは顔を見合わせている。
「やろうやろう!」
と言ったのはチコリだ。
「みんなで、やりたい……キャンプファイア!」
はしゃいだ様子のチコリに、みんな笑顔になる。
「……いいわ」
「やろう」
二人はうなずく。
「ようし、それじゃあまずは木を集めよう!」
◆
わたしたちは木々のまばらに立つ、街はずれにいた。
日がほぼ落ちて、お互いの顔がよく見えないくらいの時間帯。
わたしは片手を上げて、すこし離れたところにいる三人に合図する。
「じゃあ、いくよー!」
「うん、まばたきしないで見てる!」
「ミオン、頑張ってー」
「頑張りすぎないようにな」
わたしは、「井」の形に組んだ目の前の薪に向かって魔法を唱える。
「我求めん、汝の業天に麗ること能わん……ダークフレイム!」
ゴッ、と空を切る音がして、薪の中心から火柱があがる。
「げっ」
薪が吹っ飛び、ばらばらと降ってくる。
「前髪焦げた……」
わたしは頭に手をやり、三人の方を見る。チコリは固まっている。
あれ……引かせちゃったかな?
「チコリちゃん……?」
わたしが心配して声をかけると、
「うわー!」
突如、チコリが奇声を上げる。
「すごい、すごーい!」
わたしの元へ走り寄ってきて、手を叩きながら、ぴょんぴょんと跳ねまわる。
「ねえねえ、手は熱くないの? あの呪文ってどういう意味? もっとすごいの出せるの?」
「ち、チコリちゃん、興奮しすぎ」
少々失敗してしまったが、そう言いわれるとわたしもまんざらではない。
自然と、笑顔になる。
「ほかにはねー、水とか、風とかも出せるよ」
するとチコリはまた奇声を上げる。
「きゃー! ほんと!? かっこいい!」
「えへへ」
わたしが照れていると、にゃあ介が水を差す。
(調子に乗ってないで、もうちょっと魔力を加減することも覚えないとダメにゃ)
「た、たしかに……」
◆
それからゆうに三十分くらいの間、チコリは「すごいなあ」、「すごいなあ」を連発していた。
わたしたちは、横並びで座っている。
わたし、チコリ、セレーナ、リーゼロッテ。
それからその前には、キャンプファイアの大きな炎が、空を焦がしている。
キャンプファイアの火で沸かしたお湯に、軽く焙った干し肉と野草を放り込み、わたしたちは即席スープにして食べていた。
(ちなみに、魔法で水を出したとき、チコリは目をまるくして驚いた)
干し肉の軽い塩味と溶けだした脂、ほんのり焦げた香ばしさが長旅の空腹を満たす。
スープの温かさが、身体にじんわり広がっていく。
いろんな話をした。
セレーナと出会ったときのことや、リーゼロッテと出会ったときのこと。
チコリは何もかも興味深そうに聞いていたが、特にわたしたちがウィザーディング・コンテストに出場したときの話を聞きたがった。
「三人で魔法の大会に? すてき!」
チコリはわたしたちの話を、没入するように聞いた。
ケインたちの邪魔が入ったところでは憤慨してムッと口をとがらせ、
決勝でレッサー・ドラゴンの口枷が外れたときには、はっと息を飲み、心配そうにわたしを見つめる。
話の終わりに、わたしたちが優勝したことを知ったときには、歓声を上げて手を叩いた。
「優勝? すごい! お話の主人公みたい!」
まるで自分のことのように、チコリは喜ぶ。
たった今、優勝カップを手にしたみたいに、わたしたちと手を取り合って笑った。
それから、しばらく四人で炎を見つめる。
パチパチと爆ぜながら、炎は天へ駆け上がっていく。
「ミオン、歌を歌ってよ」
突然、セレーナが言う。
「そうだ。久しぶりに聴きたいな、あの歌。チコリ、ミオンはすごい歌を歌えるんだぞ」
リーゼロッテも何故か乗り気だ。
「えー」
わたしが渋っていると、
「聴きたい」
チコリがじいっと見つめてくる。
そのキラキラした瞳には、逆らえなかった。
「しかたない……」
わたしは立ち上がる。
「コホン。えー、では……」
「待ってました!」
三人から拍手が上がる。
「鎖につながれた眠らない街♪」
わたしは以前も歌った、ラノベアニメの主題歌を熱唱しはじめる。
チコリが、ぽかんとした顔でこっちを見つめているのがわかる。
今度こそ引いてるかな?
うーん、今さらやめられない……歌いきるしかない!
「ジャッジメントされた神話に死の接吻を……ウォウ♪」
歌い終わると、わたしは座ってチコリに訊く。
「ど、どうだったかな」
つかの間の静寂の後、やんやの拍手が起きた。
「すてき! なんていうか……すごい歌!」
「だろう? 聴いたこともない摩訶不思議な歌だが、素晴らしいんだ」
「ミオンには歌の才能があるのかもね」
照れながら周りを見ると、炎がみんなの笑顔を照らしていた。




