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第百七十二話 長老の話

 ディゴスと長老の家へ戻ると、長老は家の前で待っていた。


「あ、長老さま!」


 わたしは手を振る。


「魔物はやっつけました! もう大丈夫です!」


 それまでずっと腕を組んでいたディゴスが、


「ううむ……!」


 と、感嘆の声を上げる。


「驚いた! 都会の方には、こんな娘がごろごろいるのか?」


「えーと……」


 わたしはグランパレスの隼のリーズや、イェルサの稲妻のメティオのことを考え、


「わたしなんかよりも小っちゃくて強い子もいます」


 と、はにかんだ。


「むむむ……」


 ディゴスはうなる。


「長老さまは、気づいておいでだったんですか? 彼女たちの実力に」


 ディゴスは長老に問う。


「ふぉふぉ……どうかのう」


 長老は白い髭を撫でながら、


「わしは、自分の直感を信じておる。窮地のときは直感に頼ってくぐり抜けてきたでのう。それに……」

「それに?」


 長老はふぉっふぉっと笑った。


「伊達に長生きはしとらん」




   ◆




「長老さま。さきほど彼女たちが大魔導士について訊ねたとき、やはり、とおっしゃいましたね」


 ディゴスが訊ねる。


「ん? うむ、たしかに」

「あれはどういう意味なんでしょう?」


「そうじゃな……その前に」


 長老はわたしたちの方に向き直る。


「まだ聞いておらんかったの。どうして、大魔導士について知りたいのかね?」


 白眉の下から、真剣な眼差しが向けられる。


 わたしは思わず姿勢をただす。


「わたし、……大魔導士になりたくて」


「なぜ?」


 何と答えたらいいのだろう?

 わたしは逡巡する。


(正直に答えたらいいのではニャいか?)


 うん、正直に答えよう。


「あの……すごい魔法使いになりたいんです」


(……小学生みたいな答えだニャ)


 長老は可笑しそうに笑って、


「その方が、よいのかもしれんな。旧極魔法を使って自らの正義を通そうとする者よりも」


 長老はうなずく。


「旧極魔法!?」


 わたしは思わず声を上げる。

 大魔導士と旧極魔法。やっぱり二つは繋がっているの?


「……夢を、見てな」

「夢、ですか」


「空に穴があく夢じゃ。……旧極魔法復活の暗示ではないか、と思っておった」


「そ、空に穴が? なんと不吉な」


 ディゴスが言う。


「ああ。じゃが、他の者たちの手に渡るより、ましかもしれん。君たちなら……」


 長老はそう言うとわたしを見た。


「大魔導士と旧極魔法について、知っていることを話そう」




   ◆




「大魔導士は、旧極魔法を完成させるために、各地を旅してまわったと言われておる」


 長老の顔は、まったく無表情のようにも、炎でちらちらと赤く揺れる影で刻一刻と変化しているようにも見えた。

 日本でいう囲炉裏のようなようなものが室内にあり、わたしたちはその周りに座って話を聞いている。


「伝わるところによると、旧極魔法魔法に必要なのものがいくつかある。――まずは完璧な魔法陣」


 わたしは、ゴクリと唾をのむ。

 両隣のセレーナとリーゼロッテも真剣に聞き入っている気配が感じ取れる。


「森羅万象を司る法則をひとつの図形で表したような、完全無欠な魔法陣じゃ」


 長老はわたしたちに眉の下から目線を送る。


「残念ながら、その陣についての細部は伝わっていない」


 ゆっくりと間をおいて、長老はまた話し出す。


「それから必要なものはまだある。その魔法陣に力を与える、強い魔力を持った素材じゃ。大魔導士は、いくつかの素材を掛け合わせることで、これを成し遂げようとした。もうわかったじゃろう? そのうちのひとつが――」


「ヴァルリヤ石」


 リーゼロッテがつぶやく。


「そうじゃ。この村で伝統的に装飾品に使われる、えんじの宝石、ヴァルリヤ石。あれには魔力の素が結晶しておる」


「いくつかの素材を掛け合わせた、とおっしゃいましたね?」


 セレーナが訊ねる。


「うむ。……くわしいことはわからぬが、大魔導士はこの地を発った後、魔力を持つ薬草を探して南へ向かったとか」


「魔力を持つ薬草……ですか」


「その辺については、君たちの方が詳しいのではないかな?」


 長老の髭が揺れる。微笑んでいるようだ。


「なにせ魔法学校の生徒だそうじゃからな」




   ◆




 完璧な魔法陣と、魔力を持った素材。

 わたしは、囲炉裏の火を見つめながら、長老に聞いた話を反芻する。


 ――旧極魔法。一体どんな魔法なのだろうか。 


 大魔導士の足跡を追ってここまで来た。

 いくつかの情報が手に入ったけれど、まだ全貌は見えてこない。


 初めて大魔導士の名を聞いてから、どれくらい経つだろう?

 わたしは大魔導士に近づいているだろうか?


 魔物が去った村は今、とても静かだ。

 パチパチという炭の立てる音だけが耳にしみる。


「……世界が危機に瀕したとき」


 長老がぽつり、と言った。


「世界が危機に瀕したとき、旧極魔法が復活すると言われておる」

「世界が危機に瀕したとき?」


 わたしは長老の言葉にすこし面食らう。

 それって、一体……。


「どういうことかしら」

「旧極魔法が世界を救うということなのか?」


 世界を救う……。


「魔物が大挙して攻めてくるとか、そういうことかしら」

「あり得るかもしれないな」


 わたしはぐっと拳を握る。


「だとしたら、かならず復活させなくちゃ。わたしたちの力で!」


 だが長老はさらに厳かな声でこう付け加えた。


「もう一つ別の言い伝えがあってな。その言い伝えでは、旧極魔法は世界を破滅に導くとされている」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 気取る事なくストレートに心の丈を打ち明けた事で、漸く大魔導士の取っ掛かりを得る事が出来ましたね! その素直さこそが美徳なり(´ー`*) [一言] 大魔導士が求め…
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