第百七十一話 カライ防衛
「何を言っているんだ? 女の子三人に何ができる」
「でも……」
長老の家へ駆け込んできた男性は、荒い息で言う。
「こないだの魔物が、また戻ってきたんだ!」
その顔は真っ青だ。
「どこだ? 奴はどこにいる!」
ディゴスが問いただすと、男性は、
「もう、すぐそこだ。村の入口で必死に食い止めてる!」
震える手で外を指さす。
「すぐに行く!」
「ディゴス!」
長老が叫ぶ。
「その子たちの言うとおりにするがよい」
「長老! しかし……」
「早く! あのままじゃとてももたねえ!」
「くそっ」
ディゴスは剣を手に家を飛び出していく。
わたしたちも急いで後を追う。
村の中心にある石像の脇を走り抜けながら、先を行くディゴスに呼びかける。
「ディゴスさん。ねえ、ディゴスさんってば!」
「なぜついてきた!」
ディゴスは怒鳴る。
「腕に覚えがある、と言ったって、相手はコボルド。君たちのような子供が、敵う相手ではない!」
喧噪と金属音が響いてくる。
やがて、村を襲う魔物の姿が見えてきた。
人間の身体に、紺藍のたてがみを持つ狼の頭。
村の男たちが、槍を手に必死で戦っていた。
「三匹……!? まずい、仲間を連れて戻って来やがった!」
剣を構え、戦いに参加しようとするディゴスに、そっと右手を出し、制する。
「ここはわたしたちに」
「まだ言うのか! そういうわけには……」
「いくよ。セレーナ、リーゼロッテ」
三匹のコボルドが、涎を垂らしながら村人に襲い掛かっている。
手には一目で安物とわかる剣が握られ、それをぶんぶんとぞんざいに振り回している。
魔物はわたしたちを見ると、美味そうだと言わんばかりに目を細める。
そして、いっそう涎を噴出しながら、
「グルル……」
とうなる。わたしは顔をしかめる。
リーゼロッテが弓を構えて走る。
「カライの村人たち!」
リーゼロッテが叫ぶと、村人たちがこちらを振り返る。
「頭を低く!」
弓を認めた村人たちは、さっと伏せる。
人語を解さないコボルドは、豆鉄砲を食らったような顔で棒立ちだ。
リーゼロッテが続けざまに矢を放つ。
コボルドは虚を突かれ、避けきれない。
一匹の肩と、一匹の右目に矢が命中する。
強化魔法によって強化された矢は、二匹のコボルドの肩と頭を苦も無く貫通する。
「グヮオッ……!」
目を射抜かれたコボルドが、顔面を押さえながら絶命し――魔石へと変わる。
ディゴスが隣で「おおっ!」と声を上げる。
残る二匹は、新たな敵……わたしたちに向かって武器を構え、吠える。
「ウボォォオオオ!」
コボルドが剣を振り上げる。
すぐにセレーナが剣を抜き、風より早く走る。
「ハッ!」
かけ声を発した瞬間に勝負はついていた。
エリクシオンに額を貫かれたコボルドは、不思議そうに寄り目で眉間の剣を見つめている。
まるで自分が倒されたことに気づいていないみたいだ。
――二匹目が魔石に変わる。
「ミオン!」
わたしは両手を前に突き出し、魔法の詠唱に入る。
「我求めん、汝の業天に麗ること能わん」
最後のコボルドは、やけくそ気味に滅茶苦茶に剣を振り回しながら突進してくる。
「ダークフレイム!」
炎の弾が唸りをあげて襲い掛かる。
コボルド三匹なんて、わたしたちの相手にはならなかった。
わたしの魔法が最後の一匹に命中する――。
バアアァンッ!
たちまち魔物は爆ぜ飛び、後には驚いた顔の村人たちと、三個の魔石が残された。




