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第百六十六話 Cランク昇級試験

 宿の窓から外を眺める。

 ゆっくりと昇る朝日がクレメントの屋根々々を照らしていく。


 クレメントは小さな街だが、黄色っぽいレンガ造りの家々が、ところどころに配置された緑と調和するさまはレトロで郷愁を誘う。

 そんな街並みを眺めていたら、なんだか出発するのが惜しくなってしまった。


「せっかくだから、ここでもう1ランク上げちゃおうか」


 セレーナとリーゼロッテにそう提案すると、二人とも快く承諾してくれた。


「まあ、ミオンがそう言うのなら。私は全然かまわなくてよ」


 しょうがなく、といった口ぶりのセレーナだが、彼女が一番乗り気に見える。

 それでわたしたちは、宿を出ると真っ直ぐギルドへ向かった。


「いらっしゃいませ! あ、昨日の」


 受付の男性は今日も元気がいい。わたしたちに気づくと、いっそう声のトーンを上げて話し始めた。


「いやーびっくりしましたよ! 一日で2ランクも上げちゃうだなんて前代未聞です! ……Fランクの間に、よっぽど経験を積んだんですね」


「えへへ……それほどでも」


 わたしが後頭部を掻いていると、男性はにこにこ笑いながら、


「で、今日は一体、何の用で……?」


 と訊ねる。


「えーっと」


 わたしはできるだけ控えめな声で言った。


「Cランク試験受けに来たんですけど」


 その瞬間、男性は笑顔のまま固まった。




   ◆




 ようやく我にかえった受付の男性は、目をしばたたかせながら言う。


「今出ている依頼で、Cランク昇格クエストに該当するのは……、レッドリザードかレッドサーペント、またはバシリスクの討伐になります」


 いつの間にか、他の冒険者たちも集まってくる。

 ギルドの受付で、冒険者たちに囲まれながら、わたしはつぶやく。


「レッドリザートかぁ」

「そうなんです。Dランクまでとは違って、難度はかなり上がるんです」


 男性が言う。レッドリザードはさすがに相手にできないだろうと思っているのかもしれない。


「ですので、まずは普通のリザードと戦って経験を積み、腕を上げていくのがよいかと……」


「せっかくだから、まだ倒したことないレッドサーペントかバシリスクを狙おう」


 新しい敵と戦いたいもんね。


「私はかまわないわ」


 セレーナがうなずく。


 途中で話をさえぎられ、また固まっていた受付の男性が訊ねてくる。


「あの、レッドリザードなら倒したことあるっていうんですか?」


 さらに、冒険者の一人が茶々を入れてくる。


「ついこないだまでFランクだった君たちに、レッドリザードはちと無理だろう」


 わたしはニッと笑って、


「レッドサーペントかバシリスク……魔石を持ってくればいいんですね?」


「はい……基本的にはそうです。万が一レッドリザードを倒した場合は、素材をはぎ取って持ってきてください」


「わかりました! すぐ持ってきます」


 わたしたちは出口へ向かう。


「二日で3ランクだって?」

「FランクからCランクへ?」


 意気揚々とギルドを出るわたしたちの後ろで、ざわつく声が聞こえた 


「いくらなんでも無茶だ……」




  ◆




「えーっ、レッドサーペントとバシリスク、どっちもヘビなの~?」


 ギルドからの道を歩きながら、わたしはそう叫ぶ。


「……どうする?」


 弱気の声が漏れる。


「なんだ、ミオンは知らなかったのか」


 リーゼロッテが呆れたように言う。


「ヘビ嫌だなあ……。ねえ、本当にどうしよっかー?」


 わたしがぐずると、


「しっかり、ミオン。頑張って一刻も早くCランクへアップしましょう」


 セレーナはあくまで前向きだ。


「うーん……。しかたない。やるか……。……それとも、どうする?」

「どうもしないわ。行くに決まってるでしょ」


 わたしは両腕を前へ伸ばしたり曲げたりして、何とか気合を入れなおそうとする。


「安心して。どっちもレッドリザードと同クラスの魔物なんだから。私たちなら、敵じゃないわ」


 セレーナが言う。

 しかし、わたしはやはりまだ気乗りしない。


「どうしよっかなあ。……ねえ、どんなヘビなの?」


 リーゼロッテがこう答える。


「レッドサーペントにはするどい牙と強烈な締めつけがある」

「ふえぇ……じゃ、バシリスクにする?」


 ヘビの締めつけ食らうの、やだなあ。感触とか……臭いとか……。

 思わず歩みが遅くなる。


「バシリスクには強い毒があるぞ」

「ほえぇ……や、やっぱやめる? どうする?」


 わたしは思わず立ち止まる。


「馬鹿なこと言ってないで、行きましょう!」

「さいわい、二種の生息地は似通っている。水辺の森林に行けば、どちらも狙える」

「ギルドでは、北の湖でのバシリスク出没情報がある、と言っていたわね」


 二人は話しながら、どんどん先へ歩いて行ってしまう。


「ねー、どうするー」


 わたしは情けない声を出しながら、二人の後を追うのだった。


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