第百五十五話 高原での戦い2
しばらく呆然と見とれてしまっていた。
彼らの間の取り方、敵のいなし方、斬り込むタイミング。彼らの戦いのリズム。
イェルサの稲妻の戦闘は、まるで輪舞だった。
「イェルサの稲妻にかかれば、こんなのあっという間じゃない?」
彼らは強すぎる。
わたしたちの出る幕などない。
(衆寡敵せず)
「え?」
(寡は個より以て衆に敵すべからず、ニャ)
「余計わかんない。もっとわかりやすく」
(多勢に無勢とも言う。大群というのは恐ろしいものニャ。たとえ小さなアリでも)
にゃあ介の言う通りだった。
虫の大量発生も、甘いものではなかった。
「こんなに……!?」
魔物の数は減るどころか、徐々に増えていた。
やがて高原を埋め尽くすほどの、虫、虫、虫。
「うわ、うわ、うわわわわー!」
わたしの鳥肌も半端ない。
「気持ち悪いよー!」
イェルサの稲妻はそれでもやはりその実力を遺憾なく発揮していた。
襲い来る虫たちを片っ端から蹴散らし、死骸の山を築く。
しかしあまりに数が多いため、倒しても倒してもキリがない。
押されているというわけではないが、彼らの顔に、うんざりといった色が浮かんでいた。
「さあ、君たちも!」
ジェイクが叫ぶ。
わたしたちは、顔を見合わせる。
「はやく手伝って!」
ジュナがムチを振りながら頼む。
「もう! しつっこい虫たちね!」
「実力を見せてくれ」
と、ルーベンダイク。
動いたのはセレーナだった。
セレーナは剣を抜くや否や、
「ヤーッ!」
と掛け声を上げ、魔物たちに向かって走っていった。
はつらつと後ろ髪をなびかせるセレーナを見て思う。
「なんかセレーナ、嬉しそうじゃない?」
「ジェイクに触発されて剣を振りたくてうずうずしていたのかもな」
リーゼロッテが言う。
「確かに。熱心にジェイクの動きを見てたし」
「はやく剣を振りたかったのだろう。実践に勝るものはない」
うーん。セレーナ、やっぱりたくましい……。
わたしが感心している間に、彼女は前線へ駆けていく。
「ハァッ!」
セレーナがエリクシオンを横へ払う。
振り抜くと同時にグランビートルの顔面(?)が裂ける。
「トウ!」
セレーナはくるくると回りながら、剣でグランビートルを攻撃していく。
その剣が、次々と虫の化け物を斬る。
「おお」
「ほう、やるな」
セレーナの動きに、イェルサの稲妻の面々が驚く。
「いい剣さばきだ」
ジェイクが感心の声を上げる。
「さあ、私たちも参加しよう」
そう言うと、リーゼロッテが強化魔法を自らにかける。
「いくぞ」
リーゼロッテは、メティオの隣につくと、虫たちに向かって矢を放つ。
矢が命中し、虫の外皮に刺さる。
緑色の汁が噴きだす。
「ぐぇー気持ち悪いっ」
わたしが悶えている間にも、リーゼロッテは矢継ぎ早に矢を射っていく。
「なかなかいい腕。右はまかせる」
メティオに言われ、リーゼロッテはうなずくとどんどん矢を放つ。
セレーナは虫を斬りまくる。
「ミオン、何をしている。手伝ってくれ」
「ミオン、はやく!」
戦いながら、二人がそう急かす。
「うう、虫との戦いには、関わりたくなかったけど」
わたしは走り出す。
突進してくるグランビートルに、正面から駆けていく。
「はっ」
腰に帯びたルミナスブレードを抜きながら、跳躍する。
「むっ! なんという脚力!」
ルーベンダイクの声。
小山のようなグランビートルの背を、下に見る。そしてそのまま、その装甲にルミナスブレードを突き立てた。
「ふむ! 粗削りだが、力強い剣だ」
その後も、次々とやってくるグランビートルに、ひたすら斬りつける。
イェルサの稲妻とわたしたちは、しばらく共闘して魔物を倒していく。
それでも、敵の数は簡単には減っていかない。
「もうっ、一匹一匹倒してたんじゃ、埒が明かない」
わたしは一旦、最前線から下がり、呼吸を整える。
「仕方ない、やるか……」
両手を持ち上げ、遠方にいるグランビートルの群れに狙いを定め、
わたしは詠唱を始める。
「――我求めん……」
全身から集めた魔力が左手に収束していく。
「汝の業天に麗ること能わん……」
掌に火球が膨れ上がる。
そして、――開放する。
「ダークフレイム!」
わたしの腕から炎の魔法が解き放たれる。
ゴォッ! と音を立て、高原を駆け抜ける。
「うおっ!?」
炎弾が波うちながら空を斬って飛び、グランビートルめがけて襲いかかる。
虫の滑らかな外皮が炎を反射し、一瞬、ギラリと光る。
「なに……!?」
「これは……!」
爆音が、高原に轟く。
魔物たちのど真ん中に着弾した火球は、爆風と共にすさまじい火柱を引き起こす。
「ぐっ……!」
イェルサの稲妻の面々が、熱波を手で防ぎながらそれを見つめる。
グランビートルが爆風に巻き上げられる。
虫たちは外皮を高熱に溶かされながら、上空へ噴き上げられていく。
「なんという……!」
やがて、黒焦げになった虫がばらばらと落ちてくる。
巨大な虫が地面に叩きつけられる、鈍く重い音。
まるで軽自動車が落ちてくるようなものだ。
皆、頭をかばい、身を低くしてそれを見守る。
ぱちぱちと虫の装甲が爆ぜる音が高原に響く。
炎の魔法は、何十匹かの魔物とその周囲を燃やし尽くした。




