第百四十六話 隠された通路※挿絵あり
「ふぉっふぉっ。ミオン君。これはおかしなところで会ったもんぢゃな」
「校長先生!」
地下の通路に立っていたのは、ガーナデューフ校長先生だった。
「いやはや、ちゃんと閉めるのを忘れておったわい」
先生はいかにも楽しそうに笑っていた。
「ヒネック先生から隠れようとしたところのようぢゃが、先生の後をつけるとは、感心せんなあ」
「す、すいません……」
校長先生はお見通しだった。わたしは素直に謝る。
「ヒネック先生をつけたのは、理由があってのことぢゃろう?」
「あ、あの……」
わたしが口ごもると、先生はため息交じりにこう言った。
「私の個人的な願いぢゃが、旧極魔法にはあまり深入りしてほしくないのう」
「…………」
本当に、校長先生は何でもお見通しだ。そのうち、にゃあ介のことや異世界のこともばれてしまうんじゃないか、と心配になる。
「まあよい。ところで、なかなかよい場所ぢゃろう? 隠れるにはもってこいぢゃ」
先生に言われ、わたしはぐるりと周りに目をやりながら訊ねる。
「校長先生、ここはいったい……?」
見渡すと、通路は地上階と変わらないくらい広く、長い。
どこまで続いているんだろう?
「昔、とあるエルフの城主がおっての」
唐突に校長先生が話し始めた。
「?」
「エルフの城主は、とてもお茶目な性格でな」
先生はすこし目線を上にやり、言う。
「城に仕掛けを隠したり、地下に通路を作ったりして遊んでおったのぢゃ」
「地下に通路? それって……」
わたしは改めてまた周りを見回す。
校長先生のたいまつで照らされた地下通路は、広いけれどきちんと舗装されてはおらず、床は土がむき出しで壁にもところどころ岩肌が見えている。
校長先生は視線を前へ戻し、わたしの顔を見るとにっこり笑った。
「城主の名は、ゴルト・ラミネム・ガーナデューフ。……私の祖父ぢゃ」
驚きで、わたしの顎ががくり、と開く。
「校長先生の……おじいちゃん?」
エルフは相当長生きだ。
校長先生自身、齢は百を超えているらしい。
となると、校長先生のおじいちゃんの時代って、いったい何年前のことなの?
「そして、私の父が、祖父から受け継いだ城を魔法学校に改築したのぢゃ」
「!」
そうだったのか。
この魔法学校、もともとは校長先生のおじいちゃんの、お城だったんだ。
そういえば、初めて見たとき、学校というよりはお城みたいだと思ったんだった……。
「ほかにもまだ当時の名残が残っとるかもしれんのう」
校長先生が言う。
へええ! この学校、探検してみたらすごく面白いかも!
わたしがそんなよからぬことを考えていると、
「この通路のことは、可能な限り内緒ぢゃよ?」
先生が言った。
「可能な限り?」
わたしが訊き返すと、先生はまたやさしい笑顔でこう言った。
「君が、君の最も大切な親友にさえ、口をつぐんでいると考えてはおらんよ」
◆
「ふーん、隠し扉に地下通路か」
「そんなものがあるなんてね」
セレーナとリーゼロッテに話すと、二人も興味深そうに聞いてくれた。
「そうなの、すごいでしょ」
「相当古い建物だとは思っていたけれど、かつてはエルフの城だったなんて」
「うん、校長先生のお父さんが、魔法学校に改築したんだって。なんだかすごいロマンがあるよね~」
わたしは感情を込めて、そう話した。
「元は城塞として色々な仕掛けがしてあったのかもしれないわね」
セレーナも感慨深げにしている。
「だがいったい……」
リーゼロッテは首を傾げる。
「ガーナデューフ校長はそんなところで何をしていたのだろう?」




