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第百四十三話 ヒネックの提案

 寒い日が続いていた。

 窓から外を眺めると、校舎の尖塔にまでうっすらと雪が積もっている。

 雪に覆われた魔法学校は、そのままスノードームとして売っていそうなほど幻想的だ。


 その日の最後の授業は黒魔術で、教卓ではヒネック先生が講義を行っていた。


「よって……黒魔術を極める者は、魔法を極める者。この世界を極める者なのだ……」


 先生は恍惚とした表情で、なんだか危なげな話をしている。


「ヒネック先生って、黒魔法の話してるとき、とりわけこわいよね」


 わたしが言うと、


「しーっ」


 セレーナがたしなめる。たしかにヒネック先生に聞かれたら厄介だ。わたしは口を閉じる。


 ……と、終業の鐘が鳴った。先生は言った。


「今日の授業は終わりだ」




 帰り支度をしていると、セレーナが驚いたようにわたしの方を見る。


「ん、何? どしたの。はやく帰ろうよ」

「あの……」


 セレーナの視線はわたしではなく、どうやらわたしの後ろに向けられている。

 嫌な予感がして振り返ると、ヒネック先生が立っていた。


 その無表情な暗い目は、わたしを見ている。


「あ、先生。何か……」


「来るのだ」


 ヒネック先生は簡潔に言った。


「え」


 わたしの返事を待たず、すたすたと歩いていくヒネック先生。


「う、やばい。さっきの聞かれたのかな」

「そうかも……怒られないといいわね」

「セレーナはどうするの?」

「リーゼロッテと中庭で待ってる。頑張ってね」

「うぅ、薄情者~」


 仕方なく、セレーナに見送られて、わたしは先生の後をついて行く。




 ヒネック先生は、早足でどんどん廊下を歩いていく。

 わたしはときどき小走りになりながら、先生の後を追いかけた。


「あ、あのぅ……」


 わたしが話しかけようとしても、先生は黙ったまま歩き続ける。


 窓の外の白く雪化粧された景色を横目に、わたしは先生を追いかけていく。



 しばらく後ろをついて行くと、先生は別の教室へ入った。

 わたしも先生に続いて中へ入る。


「扉を閉めるのだ」


 わたしは言われたとおりにする。

 教室内には誰もいない。


 うー、なんだろ、居残り授業とかかな?


「旧極魔法について聞いたことは?」

「え?」


 急に言われて、わたしは思わず訊き返す。


「旧極魔法について何か知っているか」


 わたしは逡巡する。

 なんか前に聞いたことあるような……。


「どうなのだ」


 ヒネック先生は少しイラついたように言う。


「し、知りません」


 と咄嗟に答える。


「そうか」


 すこし考え、先生は懐から羊皮紙の束を取り出し始めた。


「では教えよう」




   ◆




 校舎から生徒たちがいなくなり、静けさが包む教室で、わたしはヒネック先生の話を聞いていた。


「……今は失われし旧極魔法」


 ヒネック先生は遠くを見るような、何を考えているのか分からない目つきで言った。


「う、失われし旧極魔法……」


 わたしは考える。

 それってパラライズウインドやウワオギのことなのかな? あるいは加速魔法のこと?


「この世界にはかつて、今よりも強大な力を持つ魔法が存在した」


 しばらくうつろな目であらぬ方向を見ている。


「迷信や噂話だと信じぬ愚か者もいるがな。だが、間違いなく実在したのだ」


 また羊皮紙をめくる手を動かし始め、こう言った。


「お前はどう思う?」


「か、カッコいいですね」


 思わずアホみたいな感想をつぶやいてしまう。

 ヒネック先生が苦虫を嚙み潰したような顔をする。


「本来なら自分でやりたいところだが……」

「?」


「お前に任せることにする」

「何をですか?」


「決まっているだろう」


 ヒネック先生は、こんなこともわからないのか、と言いたげだ。


「旧極魔法の復活だ」


「!」


 ヒネック先生は羊皮紙の束を教卓に広げた。

 わたしがそれを覗き込もうとすると、先生は言った。


「明日からも、授業後、私のところへ来るように」


「え、あ、あの、でも……」


 わたしはもごもごと言いよどむ。


「何だ? 何か不満があるのか」


「あ、あの、実は……」


 嘘をついてもしょうがない。わたしは正直にエスノザ先生の特別授業のことを話すことにした。




「なに? エスノザから課外授業を受けているだと?」


 ヒネック先生は腕組みをしてうつむく。


「…………」


 しばらく考え込む。それから、ばっと顔を上げ、


「やはり今の話はなしだ。すべて忘れるように」


 出した書類をテキパキとしまう。


「あのぅ……でも……」


 わたしの腕を引っ張り、出口へと連れていく。


「さきほどの話は誰にも話さないこと。もちろん、エスノザにもだ。いいな」


「あのぅ……あのぅ……」


「絶対に口外してはならん。早く行け」


 わたしはすごすごと教室を出る。

 ヒネック先生の教室を後にして、誰もいない廊下を行く。


 ゆっくり歩き始め、だんだん小走りになる。


「旧極魔法……旧極魔法……」


 そういえば、一度、耳にしたことがある。あれは、たしかヒネック先生に校長室に連れていかれたとき――。


「二人に相談しなきゃ」


 わたしはつぶやく。するとにゃあ介が、


(口外するなと言われたのにか?)


「そうか。そうだよね……どうしよう」


 わたしは悩む。先生は確かに誰にも言うなと言った。

 話したことがバレたら怒られるだろうか。


 校庭へ出ると、すぐに二人の姿が目に入った。

 わたしは即座に叫んだ。


「あ、セレーナ、リーゼロッテ! 聞いて聞いて!」


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― 新着の感想 ―
[一言] この主人公本当に人間だったのか・・・猫とかじゃなくて?
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ >「あ、セレーナ、リーゼロッテ! 聞いて聞いて!」 流石はミオン。 躊躇なく行った!(笑) まぁ、ぶっちゃけた話、「誰にも言うな!」……とかいう話に限って、ホン…
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