第百三十七話 クロース※挿絵あり
守衛用離れ。
シュレーネンさんはガーリンさん用の大きな椅子にくくりつけられている。
外はすっかり暗くなった。風が建付けの悪い扉を揺らす。
「シュレーネン、お前さんが混血だったとは」
ガーリンさんがシュレーネンさんの紫色の血を見ながらつぶやく。
混血……? 混血って?
「他人の出自をとやかくいうつもりはないが……お前さんのしたことは間違いだ」
「この血の色は、私の誇り」
シュレーネンさんが言う。
「今に人間は皆、魔族のもとにひれ伏すことになる」
え? 魔族?
「だまれシュレーネン。人間が魔族に服従するなど、ありえんことだ」
魔物じゃなくて、魔族? 魔族って何?
わたしは情報過多になり、頭から煙が出そうになる。
ガーリンさんの声に力がこもる。シュレーネンさんは笑顔をやめない。
「それはどうでしょう。人間など魔族の強さには及びもつかない」
シュレーネンさんの、そのやさしい口ぶりにぞっとする。
「だから何だ! 魔族も魔物も、罪もない人々に危害を加える。その時点で間違いだと思わんのか!」
ガーリンさんが声を荒げる。こんなに怒ってるガーリンさん、初めて見た。
「その通りぢゃ、ガーリンよ」
外の冷たい空気が、室内に吹き込む。
声の方向を見ると、扉から現れたのは、ガーナデューフ校長先生だった。
小さな体なのに威厳に満ちたその態度。
「校長先生!」
わたしは叫ぶ。
「もうこられたのですか。さすが校長ですわい」
ガーリンさんが言う。校長先生の姿を見て、怒りが少し静まったようだ。
「丁度、夜の散歩に出ようかと思っておったら、ガーリンからの伝書鳩が届いたのでな」
校長先生は、視線をガーリンさんの下へ向け、憂いを含んだ表情を見せる。
シュレーネンさんが校長先生の姿を見ると、その顔からはじめて笑みが消えた。
「わ、私は何も間違ったことはしていない!」
シュレーネンさんが叫ぶ。
「ああ、この世に生まれし祝福を受くるのに魔族も人間もない。ぢゃが、他人の幸福を邪魔することは見過ごせぬ」
校長先生は強い口調でこう言った。
「特に、私の生徒を傷つけることは、断じて許さん」
と、校長先生の後ろから、武器を携帯した衛兵たちが何人も現れる。
「こいつが火をつけようとした犯人か」
衛兵たちが訊ねると、ガーリンさんが答える。
「ああ。それだけじゃない。ここにいる三人の女生徒を襲おうとしおった」
声に、また怒気が少し戻ってくる。ガーリンさん……わたしたちのために怒ってくれてたんだ。
衛兵たちが椅子にくくりつけられたシュレーネンさんを取り囲む。縄を解いて立たせ、新たな縄で縛る。
シュレーネンさんは衛兵たちにそのまま離れの外へ連れ出されていく。
「シュレーネンよ……残念ぢゃ」
校長先生がそう言うと、シュレーネンさんはがっくりとうなだれた。




