第百三十四話 セレーナの告白
わたしの頭の中は、セレーナのことでいっぱいだった。
セレーナの様子がおかしいことはわかっているが、それが何故だかわからない。
心配でならなかった。
何か悩みがあるんじゃないか。
何か重大な事件に巻き込まれてるんじゃないか。
「気のせいではないのか?」
校庭のベンチに座りながら、リーゼロッテは言った。
「ううん、ぜったいおかしい。いつものセレーナじゃない」
「ふうむ」
「ね、どう思う、リーゼロッテ?」
「セレーナにも何か考えがあるのだろう」
「え、それで? どうしたらいいの?」
「何も。気が向いたら、向こうから話してくれるだろう」
「そんなぁ」
リーゼロッテはそんなふうに言ったが、やはりわたしは心配で仕方ない。
にゃあ介に話してみても、同じようなことを言うだけ。
(なんか、理由があるんニャろ)
「それを知りたいの!」
セレーナ、一体どうしたっていうんだろう。
わたしに話してくれればどんな事だって相談に乗るのに……。
そんなことを考えながら校舎を出ると、校庭の隅に、金色の髪をした人影が見えた。
セレーナだった。
何となく、声をかけづらくて、遠巻きに見守る。
「…………」
セレーナは何か、小声でぶつぶつとしゃべっていた。
思わず聞き耳をたてるわたし。
「ファイア」
あ、あれ、炎の魔法だ。
わたしは、近くの木の陰にかくれた。
◆
「無理ね……」
セレーナはそうつぶやくと、校門へ向かって歩き出す。
わたしは見つからないよう、木の周りをぐるっと回ってから、後をついて行く。
色んな考えが浮かんでくる。
なんで魔法の練習なんかしてるの?
いや、魔法の練習をしたっていい。だけどどうしてこんなところで、一人だけで?
わたしの前で魔法を使いたくない理由でもあるの?
「ひょっとして」
セレーナは、わたしが強い魔法を使えるから、気が引けているのかな?
あるいは……嫉妬?
「ううん、そんなはずない」
そんなことで嫉妬するような子じゃない、セレーナは。
でも、何かわたしを避ける理由があるはずだった。それはひょっとしてあの火事と関係が……。
そんなことを考えているうちに、セレーナは門を出ていってしまう。
わたしはあわてて追いかける。
そのまま、わたしは我慢できなくなって、セレーナの元へ走り寄った。
びっくりして振り返るセレーナ。
「セレーナ、本当のこと教えて!」
セレーナの手をとって、わたしは、叫んだ。
「な、何のこと?」
「最近、わたしのこと避けてるでしょ?」
「そんなこと、ないわ」
「うそ。避けてるもん。もしかしたら、あの火事が関係してるの?」
「どういうこと?」
「あの火事が、不審火だったってこと……」
セレーナが、わたしの目を見て、言う。
「……もしかして、私のこと疑ってるの?」
「ううん、疑ってなんかいない。でも、何か理由があるんでしょ」
「…………」
セレーナは黙り込んでしまう。でもわたしは引き下がるわけにはいかなかった。
「お願い。あなたじゃないっていうのは、もちろんわかってる」
必死で聞き出そうとする。
「……何でわかるの?」
「だってわかるもん! セレーナはそんなことする子じゃない」
わたしは言った。
「たとえ、火の手の上がった現場に何度も足を運んでいたって、校庭で火をおこす練習をしていたって、セレーナは犯人じゃない!」
「……知ってたの」
「うん。黙っててごめん。でも、わたしセレーナじゃないって信じてる」
「そんなにわたしを疑うだけの材料が揃ってるのに?」
「材料なんて何よ! セレーナじゃない。たとえ、火をつけたのがセレーナだって、セレーナじゃない! 犯人がセレーナでも、セレーナは犯人じゃない!」
「…………」
セレーナは、両手で顔を覆っている。
「セレーナ? 泣いてるの?」
するとセレーナは、
「……ぷっ」
と吹き出し、こらえきれないように笑い出した。
「セレーナ?」
「あははは。おかしい。だって、言ってることがめちゃくちゃよ、ミオン」
「だって、そうなんだもん。セレーナじゃないもん、絶対」
わたしが膨れると、セレーナは笑い止んで、言った。
「ありがとう、ミオン。信じてくれて」
◆
「えーっ、一人で事件を調べてた?」
「しーっ。聞かれたらまずいわ」
セレーナが周りを見回す。校庭にはまだ下校中の生徒がちらほらいた。
「で、でもセレーナ。何でそんなこと今までわたしに黙ってたのよ」
わたしは声を落として訊ねる。
「だって、確信が持てないことが多かったし……すごく危ない、と思ったの」
「危ない?」
わたしが言うと、セレーナは包帯を巻いた右足を見せて、
「急に魔法で攻撃されてね……何とか避けたんだけど、階段を踏み外しちゃったの」
「……!」
「ふふ……受け身、失敗。とにかく、犯人はそうとう危ないやつだわ。だから、ミオンには関わり合いになって欲しくなかったの」
セレーナは、にこっと笑った。
「…………」
「どうしたの、ミオン?」
セレーナが不思議そうに訊ねる。
わたしは、校庭中に響くかという大声で叫んだ。
「バカッ!!!」
びくっと背中を丸めるセレーナ。
「ミ、ミオン……?」
「セレーナのバカ! わたしを信頼してくれたっていいじゃない」
「ご、ごめん」
「一人で犯人捜して、魔法で階段から突き落とされた? バカッバカッ」
「ごめんてば……」
「今度、わたしにそんな隠し事したら、許さないからッ」
「ごめんなさい……」
しゅんとなるセレーナ。下を向いて、すまなそうにしている。
わたしは、そんなセレーナの手を取ると、言った。
「あー、怒ったらすっきりした。さ、行こう」
「ど、どこへ?」
「決まってるでしょ。犯人捕まえるの」




