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第百三十二話 うわさ

「むふふ」

(楽しそうだニャ、ミオン)

「うん。やっぱり、魔法って最高。ホントに授業が再開されてよかった」


 いろいろと心配ごとはあるが、再開された授業をわたしは楽しんでいた。


(前の世界でもこれぐらい勉強熱心ニャらよかったのにニャ)

「ありがと」

(ほめてないニャ……)


「ああー、魔法~魔法~」

(…………)


 そんなやりとりをしながらも時間は過ぎ、あっという間に午前の授業は終わった。


 セレーナと食堂へ移動し、リーゼロッテと落ち合う。


「あーお腹すいた」

「ミオンはいつもそう言ってないか?」


 配膳された食事をテーブルに置きながら、リーゼロッテが言う。


「しつれいな……勉強で百万カロリー消費したの! わたしだって四六時中お腹をへらしているわけじゃ……。ねえ、セレーナ」


 セレーナから返事がない。

 わたしは不思議に思って、セレーナの横顔を見る。考え込むような表情のセレーナ。


「どうしたの、セレーナ。浮かない顔してるけど」

「え、ああ……」


 セレーナが我に返ったように話し始める。


「ごめんなさい、何でもないわ」

「?」


 食堂では、いつも通り多くの生徒たちが料理を口へ運んでいる。

 ガヤガヤと騒がしく、だれが何を話しているかなんて全然わからないくらいだ。

 ときおり聞こえる甲高い笑い声の主だけはわかる。もちろんミムとマムだろう。


「これおいしいねー」


 わたしは緑色の細長い豆を食べながら言う。その豆は地球のインゲン豆とは一味違って、シャキシャキとした歯ごたえがたまらない。


「それはシャリョ・ビンズよ。育てる手間がかからないし、季節にかかわらず採れるから、とても大衆的な食べ物だと思うけど。初めて食べたの?」


 不思議そうなセレーナに、


「いやあの、あのその……知ってるよ! 育てる手間がかからなくて、季節にかかわらず採れるから、とても大衆的な食べ物のやつだよね!」


 なんてごまかしながらも、食事を終え、わたしたちは再び次の教室へと移動した。




   ◆




 午後の授業は、魔法学総合だった。

 ショウグリフ先生の授業では、魔法の実践は少ないが、魔法について深く学ぶことができる。

 魔力の練り方から、いろいろな魔法の特徴、魔法契約について初めて知ったのも、この授業だった。


 今日も、先生は魔術の起源という興味深い話をしてくれた。


「いったい魔法はいつからこの世界に存在するのでしょうか」


 ほほぉ……。わたしは先生の話に集中する。

 今日も興味深ぁい!


「まだ魔法のない古の時代、それはただ祈りや呪いとしてのみ存在していました」


 ほう、ほう! それでそれで?


 身を乗り出して授業を聞くわたしに、


(ちょっと落ち着け。流れるビールは泡を立てない。ユーゴ―)


 にゃあ介が言う。


「何言ってんの?」

(レ・ミゼラブルも知らニャいのか? 急ぐな、熱中しすぎるな、と言いたいのニャ)


「それが魔法の原始の姿。しかし――」


 ショウグリフ先生がまた話し始める。わたしはにゃあ介に言う。


「ちょ、静かにして」

(…………)


「しかしもちろん、それらには目に見えるほどの顕著な効果はありません」


 そうだよね、そうだよね! それからそれから?


「ある日、ある時点で、何者かが――精霊あるいは悪魔と契約を結んだ。その者が一番初めにこの世界に魔法をもたらしたと考えられるのです」


「ふほーっ! すごい。興味深すぎるぅ!」


(……やれやれ、ニャ)




   ◆




「あれ、セレーナは?」


 セレーナの姿が見当たらないので、誰に言うともなくそう訊ねる。

 すると、


「もう帰ったみたいよ」


 と、答えが返ってくる。


「そうなの?」


 セレーナがわたしに何も言わずに帰っちゃうなんて、珍しい。


「なんか用があったのかな?」


 今日はエスノザ先生の特別授業もないし、一緒に帰ってお茶でも飲もうと思ってたのに……。




 仕方なくわたしが帰り支度をしていると、教室の後ろでミムマムが話し込んでいるのを見かけた。

 わたしは声をかける。


「ミム、マム!」


「あ、ミオンさん……」

「なになに? また新しいうわさ話してるの?」


 ちょっとした好奇心でそう訊く。


「あ、あのぅ」

「どしたの?」

「き、聞かない方がいいかもしれません……」


 ミムマムらしからぬ歯切れの悪さだ。

 いつもなら嬉々として話し始めるところなのに。


 わたしはすこし不安になりながら訊ねる。


「おしえてよ。今度はどんなうわさが立ってるの?」


 ミムとマムは顔を見合わせ、


「じつは……」


 と話し始めた。




 一分後、わたしは大声で叫んでいた。


「なんですって!?」


 ミムマムはバツが悪そうに肩を丸め、


「だから聞かない方がいいって言ったのに……」


 と、上目遣いでわたしを見ながら言う。


「いったい、どこからそんなうわさが……!」


 それは、わたしにとって許しがたいうわさだった。


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