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第百二十九話 ユナユナ先生への報告1

 廊下を歩きながら、エスノザ先生はわたしに話しかける。


「ミオンさん、念のため確認したいのですが、時の魔法を契約したこと、ユナユナ先生に話しても構いませんか」

「え、はい。……なんでですか?」


「契約したのはミオンさんの成果ですから。ミオンさんが広めて欲しくないと言うなら、そうします」

「あ、そんなこと気にしないでください。エスノザ先生の考えに従います」


 エスノザ先生は歩く速度を少し緩め、言った。


「魔法は幅広く皆に使ってもらいたいと思っているのですが、悪用されないとも限らない。新たな魔法ともなればなおさらのことです」

「なるほどー」


「そのため、対処法を考えるのも、魔法学校の教師としてのつとめ。時魔法の専門であるユナユナ先生には知っておいていただくべきかと」

「そうですね。わたしもそう思います」




「ユナユナ先生、お待ちください」


 ちょうど教室から、本を抱えてローブをなびかせながら出てきたユナユナ先生を、エスノザ先生が呼び止めた。


「あら、どうかされましたか、エスノザ先生?」


「じつは、重大報告が……とにかく、教室へお戻りください」


「?」


 ユナユナ先生は、わたしとエスノザ先生へ交互に目をやり、怪訝な顔をしていたが、


「それでは……」


 と、うながされるまま、教室へ入る。


 教室内にはまだ残っていた生徒が数人いたが、しばらくすると皆出て行き、わたしたち三人だけになった。


「さて、いったい、どんな要件なんです?」


 ユナユナ先生は教卓の隣へ椅子を引いて腰掛け、興味半分、心配半分、といった表情で訊ねる。


「ミオンさんと一緒にいらして、何があったのかしら。まさか、ミオンさんの退学処分なんていうんじゃないでしょう?」


 わたしはずるっとこけそうになる。なんでそーなるの。


「ははは、まさか」


 エスノザ先生は笑って、シルクハットへ手をやる。


「たしかに問題も多い生徒ですがね」


 わたしはまたずっこけそうになる。そんな風に思われてたの、わたし?


 エスノザ先生は少しかがみこむと、意味ありげに言った。


「むしろ逆です、今回の話は」


 窓から漏れくる夕日が先生の顔を染める。

 ユナユナ先生は不思議そうに訊き返す。


「逆?」


「ええ、大手柄もいいところでしてね。……ミオンさん」


「あ、ははは、はい!」


 急に振られ、わたしは慌てて進み出る。


「あのう、じつは……」


 もじもじしながら、話し始めた。




   ◆




「なんですって!!!」


 ユナユナ先生が、ものすごい勢いで立ち上がる。

 がたん、と音がして椅子が倒れる。


 ユナユナ先生は、目を丸くしてわたしとエスノザ先生を交互に見ている。

 きっと、わたしだけだったら、こんな話冗談だと思ったんじゃないかな。

 エスノザ先生が一緒なので、先生も真剣に聞いてくれているにちがいない。


 ユナユナ先生は、それでもまだ信じられない、という様子で、


「そ、それでは、あの」


 手をばたばたと動かし、わかりやすく慌てふためいている。


「ま、まさか、その」


 息の吸い方すら忘れてしまったみたいに、ハアハア言いながら、ユナユナ先生が訊ねる。


「か、かそく、加速魔法を……?」


 エスノザ先生が答える。


「そうです。再契約したのです。そうですね、ミオンさん?」


 わたしは、おずおずとうなずく。


「ほほほ、ほ、本当なのですか!? た、たたた、確かですか!?」


 いつもシュッとしているユナユナ先生が取り乱すのを見て、ちょっと吹き出しそうになる。

 でもこういう先生、なんかかわいいな。


「はい、間違いありません」


 わたしは自信をもって答える。


「と、いうことは……?」

「はい、使ってみました」


「使ってみた? で……」

「はい、成功しました」


「成功した!」


 先生の声がひっくり返る。


「……一度ではありません」


 と、わたしはつけ加える。


「な、なんと……!」


 ユナユナ先生はふらふらとあとじさる。

 エスノザ先生が素早く動く。


 椅子を起こし、さっとユナユナ先生のうしろへ立てる。うーん、紳士。


 どさり、と全身の力が抜けたようにユナユナ先生は椅子に座った。


「いったい……どうやって……」

「グランパレスへ行ってきたんです」


「グランパレス? そういえば前に……」

「はい。先生に王立図書館の話を聞いたので」


 ひゅーっと息を吸って、ユナユナ先生はかすれ声で訊ねた。


「王立図書館で情報を?」

「リーゼロッテが本を見つけてくれました。必要なものがそこに載ってました……特別な祭壇と、聖なる祈り」


「それで……」

「それで、精霊を呼び出しました。最初はダメそうだったけど、最後には契約してくれたんです」


 わたしはグランパレスのグランクレール大聖堂で行なった、魔法契約のときの様子をエスノザ先生とユナユナ先生に語って聞かせた。


 エスノザ先生は、感心したようにため息をつく。

 ユナユナ先生は、椅子に深く座り、目を閉じている。

 浅くなってしまう呼吸をなんとか戻そうと、無理やり深呼吸してるみたいだ。


「…………」

「先生?」


「…………」

「あの、大丈夫ですか、先生?」


「…………さい」

「え?」


 聞き取れずに、わたしは先生の口に耳を寄せる。

 ユナユナ先生はもう一度繰り返した。先生はこう言った。


「見せてください」


 すると、


「ぜひ、私からもお願いしたい」


 エスノザ先生も言う。


「私も、まだ見せてもらってはいないのです」


「ミオンさん」


 ユナユナ先生はわたしを真っすぐ見た。


「お願いします。教師としてではなく、先輩として言うのでもありません」


 熱のこもった声で、先生は言う。


「人間として、おなじ魔法使いとして、個人的にお願いしたい」


 わたしには先生の気持ちがわかった。心からの声だった。


「見せてください、加速魔法」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 先生方としても、一度は失われてしまった魔法だけに興味が尽きないのでしょうね。 [一言] 教え子に対しても素直に「見せてください」と言える先生方は素晴らしいと思う…
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